タツナミソウ
「ご、ごめん。」

咄嗟に謝って手を離した。そして横を向いて、行き場を失った右手をなんとなく自分の椅子の背もたれにおろした。横目に見える深澤君がどんな顔をしているのかわからない。だけどよく考えたら私が謝る必要無くない?意味がわからない。それを口に出そうとした時教室のドアから私を呼ぶ声がした。

「チコ〜!!ちょっと生物の教科書!貸してくんね??あ、、、。ごめん、なんか話してる途中だった??」

亮太が私の呼吸を止めた。ワンテンポ遅れて心を矢で撃ち抜かれた。一瞬何が起こったかわからなくて固まった。

「チコー?」

その声で体に力が入るようになった。

「え?あ、うん?何?」

隣にいたら耳を押さえたくなるくらいの声の大きさになってしまった。思わず、深澤君の事を隠した。それは本の事が亮太にバレたくなかったから。ただ。それだけ。

「んー、生物の教科書!貸して欲しかったんだけどさ、てか、大丈夫?なんか話の途中だったんじゃないの?」

亮太は唇をとんがらせながら、人差し指を突き出し私と深澤君の間ゆらゆらさせた。

「あー。うん。ぜっんぜん大丈夫。生物ね、はいはい。」

ロッカーに向かう時に深澤君の方をみて「かくして」口パクでそう言った。ロッカーの中の1番奥の方に追いやられていた生物の教科書を取り出し立ち上がった。後ろを向くと、ドアの所にいた亮太の姿がない。あれ?いない。どこだろう。「え?なんで?」声が出た。深澤君の背中で隠れていて、亮太のふわっとした髪の毛だけが見えていた。やばい。本がバレちゃう。気持ちと同時に体が動いた。たった、数十メートルの距離を全力で走った。

「ちょ、、、2人とも、、、。」

幸子は息切れまじりの声で亮太腕を掴んだ。

「へえーーー!深澤の家って定食屋なんだ!だから自分も料理の勉強って偉いな。、、ん?でも、はじめてのお弁当?これ初心者向けのやつなんじゃねーの?」

「そうなんだよ。偉いってか、嫌いじゃないしな。てかやらないと怒られるからっていう感じかな?最近弁当も売り出したんだよ。だから初心に戻ってこういうのも見てみよあと思ってさ。」

「あ、チコ。教科書ありがとうな。深澤も!また今度話そうな!」

、、、は?
亮太は私の教科書を持って、手を振って教室を出た。というか、なんで亮太と深澤君が話してたの?おかしくない?それより、深澤君の家って定食屋さんだったの?え?てかそれ私の本だよね?じゃあ嘘?その本を誤魔化すための嘘?なに?頭がぐちゃぐちゃで思考がついていかない。
< 101 / 122 >

この作品をシェア

pagetop