タツナミソウ
「うわー!何この匂い!素敵」

目を瞑って感動していると深澤君がクスクス笑った。奥から出てきたお母さんが「いらっしゃい。ゆっくりしてってー」と叫んで、また料理を作り始めた。お店の上にある自宅のキッチンを使って教えてくれるらしい。階段を登りながら深澤君が言った。

「鰹節と昆布の出汁だよ。これなら簡単だから今日教えるよ」

だ、、し、?まさか、この人は私に出汁からやれと?まともに卵焼きすら作った事のないこの私に?ふっ。馬鹿な話だ。できるわけがない。やっぱりこの人に頼んだ私が馬鹿だったよ。

「ねえ、入口でさ、外国人のホワイポーズ的なのしないでよ。どうせ出汁とか難易度高い事言って、この人なんなのよ!とか思ってんでしょ、バレバレ」

は!!なんでバレたの!!エスパー?

「うん。エスパーでもないから、早くやるよ」

ちょっと気に食わないけど、すごいのは確かだから何も言わなかった。何も話してないのに「そんなに怒らないでよ。教えないよ」とか言ってくるから仕方なくニコニコしたら、気持ち悪いって言われた。教えてくれるのは感謝するけど、深澤君がこんなに嫌味を言ってくる人だとは思わなかった。あの事件以来、ちょくちょく話してて、仲良くなれると思っていたのにな。私の間違いだったかな。まあ、今日教えてもらったらお礼だけして関わらないようにしてもいいよねと思った今日この頃。

「さ、手洗って!やるよ」

「はーい!」

荷物を置いて、エプロンを借りて手を洗った。鞄の中の携帯が亮太からのメールを届けてくれている事にこの時、気がついていればあんな事にならなかったかもしれないのに、、。
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