タツナミソウ
更衣室を出て、同じポケットに鍵を入れた時、料理長に呼びとめられた。

「おぉ。目黒!ちょっといいか?」

「はい、なんですか?」

後ろ振り返ると腕を組んで、歯をシーシー言わせている料理長がいた。

「岩本の指導係だった向井いるだろ?ちょっと怪我しちまって、1ヶ月は休むんだと。だから、明日からそっちの方に岩本移動させるから、指導係お前な。頼んだぞ〜。」

「え?あの。」と言う声など、届いていないのか、都合よく聞こえない様な耳になってしまっているのだろうか。私の肩をポンと叩いて、後ろ姿で手を振りながらいなくなってしまった。ちょっと腹が立つ。

私達の製造係は大きく2つの場所に分かれている。
第一部署は、主に焼き係。スポンジや焼き菓子など、力仕事が多い部署なので、新人の男の人はこちら側に入る事が多い。
第二部署は、仕上げ係。スポンジのカットから、ナッペ、飾りつけまで全てこなす。私と舞はこっちの部署だ。

第一の向井さんは、趣味でやっている野球で指を怪我してしまったらしい。どうして今のタイミングなのだろう。「すまんな。任せたわ。」両手を合わせながら言っている姿が想像できてしまう。

同じ会社というだけでも、頭がおかしくなりそうなのに、指導係という事は毎日一緒?
嫌だけど、嬉しい。今なら舞の気持ちがわかる気がする。
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