タツナミソウ
迷惑って言ってないんだから、何で素直に受け取れないのよ。と少しムカッとしたのが、眉間にシワを寄せた。尚更、翔平の顔が曇ってしまった。
しばらく無言の時間が続き、少し罪悪感を抱いた幸子が口を開いた。

「あのね。最初から完璧にできる人なんかいないから。私もそうだったし。だから、上手くやろうとなんかしなくていいの。
だけどね、一つ一つ丁寧にやってほしいの。私たちにとっては、1日何十個も何百個も作る中の1つだけれど、お客様にとってはその1個が全てなわけでしょ?
そう考えたら、これはギリギリ出せるなとか、まあこれでもいいかっていう気持ちにはなれないと思うの。
そこを大事にしていれば、そのうち絶対上手くもなるから。ね?」

「わかりました。すみません。ありがとうございます。」

「ほら!そんな顔しながらやってたら、苺にもうつっちゃって、可愛くない苺になっちゃうよ!
美人な苺ショートにしよ?」

黒い渦巻きの周りを紫が覆ってた翔平の周りは、一気に黄色寄りのオレンジ色になって、声を出して笑うのを必死に我慢した様子で言った。

「美人なケーキってなんだよ笑
本当、幸子さんって不思議な言い方しますよね。」

彼があまりに無邪気に笑うから私も自然とオレンジになった。

「なによ。わかりやすいでしょ。1番可愛い状態で送り出すのよ。」

翔平はクスクス笑って、「はいはい。」と言って作業を続けていくうちに、またいつもの青色に戻っていた。「なんなのよ。」届くか届かないかの小さな声で呟き私もペティナイフを動かしはじめた。

彼の事をもっと知りたい。私を知ってほしい。それは彼が亮太だから。そうだよね?
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