タツナミソウ
めぐみは、幸子の長くなった靴紐のリボンの輪っか見て、自分の胸ポケットに入っていた両端が結ばれたチョコレートを差し出した。

「これ、あげる!幸子の好きなアーモンドチョコレート」

「え?いいの??」

めぐみは私の肩を叩いて、右手の親指を立て頷いた。

包み紙を開けると、半分くらい溶けてしまったアーモンド剥き出しチョコレートが出てきた。包み紙にゲトゲトにチョコレートがついていた。
開けた瞬間2人とも時が止まって、顔を見合わせ、同時に吹き出してしまった。

「私の、幸子への愛が強すぎたんだわ笑」

「うん。そうだね。ありがとうね。」

幸子は溶けかけのチョコレートが手につかないように口に運んだ。
右の頬にチョコレートを含んで、めぐみの方を見た。親指を立てて、口角を上げた。

「トイレ行ってから教室戻ろうっか!」

めぐみがそう言って、私達はトイレの鏡の前で、色付きのリップを塗った。口の中に含んでいたアーモンドをカリッと噛んで飲み込んだ。
トイレの扉を開けた瞬間、男子トイレからも誰か出てきた。

「あ、、、。」

私はその人を見て、思わず声が出てしまった。

目の前には亮太がいた。

亮太の友達が、ニヤニヤしながらこっちを見てきた。それが嫌で、めぐみの手を引いて「行こ。」と言って教室に戻ろうと亮太達の真横を通った。

「あの、幸子!放課後時間、、ある?」

後ろから亮太の少し高くなった声が聞こえた。
胸がぎゅっとなるのがわかった。

振り向いて、首を縦に何度も振った。
亮太の友達の「ヒューヒュー」という声がさっきまでの私だったら眉間にシワを寄せていたが、今は違う。むしろ祝福してくれてありがとうとまで思えるほどだ。

角を曲がって、亮太達の姿が見えなくなると「授業始まっちゃうから早く!」と言ってめぐみの手を強く握りながら、スキップをして教室に向かった。横からめぐみのパタパタパタという小刻みで軽快な足音が聞こえるけど止められない。
今なら雲の上に行けそうな気分だ。

だけどひとつ忘れている事があった。亮太達も私達と同じ教室に向かっているということ。
< 40 / 122 >

この作品をシェア

pagetop