タツナミソウ
翔平からあからさまに目を逸らし、仕事に集中しているフリをした。

「可愛い」て言ったのは、苺の事だよ、、、ね?今更そんな勘違いするような歳じゃないよ。でもでも、翔平君はギャグとか言ったら返してくれる気がするし。それに触れないのっておかしいよね、、?てことはもしかして「可愛い」って私?のこと?そんな事を考えながらやっていたから、手元がくるってしまい、ペティナイフで指を切ってしまった。

「いった、、、」

青い手袋の中から、赤いあったかい血がドクドクと出てきた。食材に付いてはいけないという思いで、とっさにサロンで手を包んで隠した。

「大丈夫か?」

向かえ側にいた翔平が近寄ってきて気づいたら隣にいて私の手を握っていた。その大きな声に皆んなが気付いてしまい、一斉にこちらを振り返った。

「すみません。大丈夫です。手洗ってきます」

ペコペコしながら流しに向かった。今の私の顔はあつい。きっとほっぺも赤いだろう。それは、こんな初歩的なミスをした自分に対してだろうか。全員にバレて恥ずかしかったからだろうか。それとも、すぐに気付いて近寄ってきて私の手を握った翔平君の手が、とても熱くてでも心地良くて、胸がトクンと鳴った気がしたからだろうか。
そんなモヤモヤと共に、血を洗い流し、絆創膏で蓋をした。青いゴム手袋の中に隠してしまえばわからない。
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