タツナミソウ
「お疲れ様〜。手大丈夫?気をつけてね?」

舞がふわふわのいい匂いの髪をなびかせて、手を振りながら先に更衣室を出た。
リップを塗り直して、少し不揃いの前髪をチェックして私も更衣室を出た。すると、その前で翔平が立っていた。話しかけてはいけないやつだなと思い、前を通り過ぎようとしたら、左手を掴まれた。

「いたっ、、、」

ちょうど切ったところを強く掴まれたから、びっくりよりも先に痛みが勝ってしまった。

「あ、ごめん」

翔平は私の手を離して頭を掻いた。そして、続けて言った。

「あのさ、よく考えたら、べつに俺らが一緒にいるのとかバレても良くね?昔近所に住んでたって言えばいいだけだし」

「え、、。あ、うん。そうなんだけどさ、、、」

たしかにとは思った。だけど、何故か変な気持ちになった。何か納得がいかない事があるとすぐに口を曲げてしまう癖がでる。いつもは無意識な事が多いけど、今日は自分でも曲がっているのがわかるくらいだ。

「なに、まあ、嫌ならいいけど」

「や、そーゆーわけじゃないんだ。本当」

「ま、いいや、とりあえずここで話してもあれだし行こう」

翔平はそう言って、先にスタスタと歩き始めてしまった。そりゃそうだ。あんな変な顔をされたら私だって嫌なんだなと思ってしまう。でも、本当に違うんだけどな。言葉にできないもどかしさが私をどんどん小さくする。彼の後を追いかけて、斜め後ろを歩き続けた。さっきの言葉がなぜモヤモヤしているのかが自分でもわからなくて気持ち悪い。でも、そのせいできっと翔平は傷ついてしまっているだろうと考えている自分が、なんかもっと気持ちが悪い気がする。
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