タツナミソウ
それから私は、亮太に3つの約束の事を話した。1週間に一度だけ。亮太に会えるこの時間を大切にしたい。そして、いつか、あの時叶う事のできなかった事を沢山したい。そう願っている。

「じゃあ、今日は何をする?」

笑顔の亮太が首を少し右に傾けながら言った。「ちょっと待ってね」と言い、自分の鞄をゴソゴソして紫色のメモ帳をとりだした。
不思議そうにしている亮太の前に突き出して、上の歯をおもいっきりだして笑った。

「これ!作ったの。亮太とやりたい事リスト作ろうと思ってさ!」

メモ帳の1枚目をめくり、顎に手を当てて「んー。どれにしようかな」と悩んでいる私に、どれでもいいんだよ。なんでもするよ。と亮太は優しく包み込んでくれる。だから、右の口角だけを上げてニヤッとした。

「今日はこれをやります!」

指をさした先には『新婚さんみたいな事がしたい!』そう書かれている。
びっくりした亮太のほっぺを両手で挟んで子供の様な笑顔で顔を近づける。そしておでこをくっつけた。近すぎて見えないけど、亮太もきっと笑ってくれていると思う。照れているのかデレデレしてぷるぷるした笑い声になっている。歯に力が入っているのか頬も硬くなっている。照れている事隠さなくてもいいのになと思ったけどあえて言わなかった。不貞腐れるのが目に見えているから。とにかく愛おしくて、亮太の頬にキスをしようと背伸びをして唇を近づけた。

「こーら。だめでしょ」

亮太の大きな手が頬に触れた。片手で私の両頬を温めてくれるこの手が大好きだ。その温かさに触れようとした時、彼がブハッと吹き出して笑う。またプルプルして笑っている。変な笑い方だ。そんなに笑う事を我慢しなくても今は私達2人しかいないし、誰も見ていないのに、私には全てを見せて欲しいのに。彼がどんな顔しているのかみたいのに、ずっとつむじしか見えていないのがもどかしい。

「ねえ!なんでそんな笑い方してるの!」

「え?あぁ。だってチコの唇、タコみてーでおもしれーんだもん」

私の方を見て、やっぱり無理とか言ってずっと笑っている彼が、本当にウザくて鬱陶しくて、大好きだなと思った。涙が出るほど笑っている彼をみて、私も移ってしまった。こんなに近くにいるのに、キスができなくて悲しんでいるのが気付かれたのか、彼は私をそっと包み込んでくれた。それに応えるように私も必死で力いっぱい、亮太を包んだ。間違いない。私は今、世界で1番の幸せものだ。
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