タツナミソウ
もうすぐで、時計の短い針が9のところに着く。こっちの約束は守らないと流石に怒られるだろう。
本当は、ずっとずっと一緒にいたいけど、そんなわがままはもう大人だし言っていられない。亮太も寂しそうな顔をしている気がする。時計の音だけが部屋に響いている。
長い針が12のところに着いた時、亮太が言った。

「じゃあ、また来週ね!愛してるよ、チコ。」

それから私の頬にキスをして、いなくなってしまった。

「幸子、、さん?」

彼の唇が私から離れた瞬間、頬に冷たい雫が通って行くのがわかった。

翔平君の目が赤くなっている様に感じたのは、涙でぼやけて見えているからだろうか。それとも亮太がそうさせたのだろうか。
早く止まれ、止めなきゃ、迷惑かけてしまう。そう思えば思うほど溢れ出てきて、どうしようもなかった。

子供の様に泣いて、座り込んでしまった幸子を、翔平は優しく包み込んで、「大丈夫だよ。ごめんね。」そう呟いた。

どのくらいの時が経ったのだろう。わかる事はその間翔平がずっと私を抱きしめてくれていた事。張り詰めていた気がいっきに抜けて、私はそのまま眠ってしまったらしい。

またあの夢を見た。
紫色のお花の中に包まれている。気のせいかな。今回は紫が、ちょっと青みが強い気がする。それに量も前より増えている?起き上がって、亮太を探した。たくさん、たくさん走っても見つからない。でも、私と私とは違う誰かの足音が響いている。それが亮太なのだろうか。その人は、私が歩き出すと一緒に歩く。止まったら止まる。後ろをついてきているのかな?不意に振り返っても見つけられない。不思議なのは、姿が見えなくて不安なはずなのに、何故だか安心した気持ちになる事。もう走るのは辞めて、大の字に寝転がり目を閉じた。
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