タツナミソウ
目を開けると、空は明るくなっていた。
小鳥が鳴いていた。とか言うのが理想だろうけど、実際はカラスが鳴いていた。
カーカーカーカー、馬鹿みたいに鳴いている彼を見ていたら、なんだか全部馬鹿らしくなった。これから色々もっと頑張ろ!オシャレも、仕事も、恋愛も!ウキウキな気持ちで両手を空に向けて伸ばして決意した。

「ねえ、なんか笑顔のところ申し訳ないんだけど、遅刻するよ?」

翔平が時計を指しながらこちらを向いていた。
焦って部屋中をバタバタ走り回る私を空気かの様に気にしないで、熱々のコーヒーを飲んで携帯を触っている翔平が、ちょっと、いや、かなりうざかった。

家を出る時間ギリギリに準備が終わった私を見て、「女じゃないみたい。」そう言った彼の顔を私は絶対忘れない。忘れてやらない。

会社に着いて更衣室に入ると、舞が1人で準備もしないで立っていた。

「なにしてるの?早くしないと遅れちゃうよ?」

おはようを言う余裕もなく、舞に駆け寄った。下を向いている彼女の顔を覗き込んだ。泣くのを我慢しているようだった。携帯を握った手も震えていた。こんな舞の姿を見るのは初めてだった。いつも笑顔で話しているのが当たり前になっていた。
前の彼氏に浮気された時だって、その前の彼氏に自分の大好きなアイドルのグッズを売られた時だって、その前の彼氏はもう忘れたけど、何をされたって泣いた所なんて見せた事がなかった。正直いつも、舞の恋愛の話しはゲームみたいな物で、現実世界の話ではない様な気がしていたのかもしれない。私だったら立ち直れないような事も、舞はいつも笑いながら話していた。たしかに愚痴とかは言っていたし怒ってはいたけど、悲しんでいると感じた事はあまりなかった。それに毎回振っていたのは舞の方だったから。だから、いま目の前にいる舞も、なんだか信じられない自分がいる。舞を抱き寄せて、背中をさすりながら「どうしよう。どうすればいいのかわからない。」かける言葉が出てこなかった。

しばらくすると、舞は立ち上がった。

「よし!仕事するぞ!」

「、、、、、うん。」

「あ!ねえ!今日空いてる?」

舞は、あたしが思っているよりもずっとずっと強かった。「もちろん、空いてるよ。」と返した私の肩に手を回して、飲み行くぞー!と更衣室の外まで聞こえる声で叫んだ。
< 69 / 122 >

この作品をシェア

pagetop