タツナミソウ
残っていた飲み物をぐいっと飲み干し、舞の肩を叩いた。

「舞!起きて!!帰るよー!」

肩を少し強く掴んで揺さぶっても起きる気配はない。スースーという寝息と、たまにむにゃむにゃ口が動くだけ。
止められなかった私も悪いけど、明日も朝早いのにどうしよう、、、。
このままタクシーで送ってもいいけど、舞とは逆方だし、時間もお金もかかってしまう。これ以上ここにいて深澤君に迷惑をかけてしまうのも申し訳ない。

片付けを終えた深澤はそばに駆け寄って、座っている幸子の左肩に体重をかけた。背中に当たった深澤君の濡れたサロンは冷たかったはずなのに、私の背中はどんどん熱くなるのがわかった。この熱が伝わらないように少し背中をのけぞった。
幸子から手を離した深澤は後ろの棚のお酒の瓶を整理しはじめた。

「俺の車で送ってくよ。舞ちゃん?はダメそうだったらここに泊まればいいし。明日何時に出勤すればいいの?」

深澤君はこのお店の上に住んでいる。2LDKでなかなか広い。私も帰るのが面倒な時にお世話になっている。深澤君の事は信用しているし、舞の事も疑っているわけではない。でも、深澤君が他の女の子を部屋に入れているのを見た事がなかったから、なんだか複雑な気持ちになった。今までの彼女ですら、私が知る限りは部屋に入った事がある人はいないはずだ。しばらく黙っていると深澤君がクスクス笑い出した。

「そんな、怖い顔しなくても大丈夫だって。俺、オオカミに見える?どちらかと言うとか弱いコイヌじゃね??」

「、、、可愛いは余計。」

絶対可愛くない顔で答えてしまった。
深澤君は「ひでぇ〜。」と言いながら車の鍵のリングを人差し指に入れてクルクルしていた。最後のあがきで舞の両肩を掴んで強く揺さぶって、耳元で「起きて!帰るよ!」そう全力で叫んだ。舞には届かなかった。可愛そうだからそのまま寝かせてやろう。という深澤君にも何故だかだんだん腹が立ってきた。もうどうなでもなれと思って言ってしまった。

「じゃあ、上運んだ方がいいんじゃない?明日ちゃんと会社に来させてね、7時20分までには。あと避妊はちゃんとしてよね。舞可愛いしさ、いいじゃん。」

「はぁ?お前何言ってんの?」

「、、、、、。」

自分でも馬鹿な事を言っているなとはわかっていた。でも止めることはできなかった。
険悪な空気の中。深澤君が舞をおぶって2階に運ぶのを後ろからついて行った。舞のジャケットと鞄を持って。
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