タツナミソウ
この日は1日中仕事にならなかった。

ショートケーキは床に落とすし、マロンケーキの上の栗をのせ忘れるし、毎朝するドライアイスの電話もかけ忘れて、舞に少し怒られてしまった。
「朝礼から元気ないし変だよ。」という舞の心配する声に、俯きながら頷いた。

なんとか仕事を終えた。
着替えて更衣室を出て、その先の下駄箱の窓から何気なく空を見た。
太陽は後1時間ほどで消えるのが嫌なのか、綺麗なパステルカラーで私に消えたくないと訴えかけてくる。

「あ、お疲れ様です。」

後ろの男子更衣室の方から聞こえてきた。
振り返ると、そこには翔平君がいた。

今一番会いたくない人No. 1だ。

この人のせいで今日は仕事にならなかった。それに、亮太にすっごい似てるからドキドキして、心がぎゅーとなって仕方がない。
まるで雲の上を歩く綿飴になったようにふわっふわだ。でも水をかければすぐに消えてしまう。彼は弟。

もし、亮太がいなくなっていない世界だったら、彼がいなくなっていたらどうなっていたのかな。

そう考える私はダメなのかな。
< 8 / 122 >

この作品をシェア

pagetop