タツナミソウ
舞をベットに寝かせて、横を向かせて毛布を背中に挟んだ。顔の下にはバスタオルを引いて。深澤君が私を送ってくれている間にもし舞が戻してしまっても大丈夫なように。本当に深澤君は優しい。

「じゃあ、行くか。」

私の顔を一度も見る事なく横を通り過ぎて行く深澤君から冷たい風がふいた。だから、いつもより離れて後ろをついて行った。
乗り慣れた黒いピカピカの車が今は眩しすぎてなんだか見えにくい。だから、なるべく見えないように目を細めて助手席のドアを開けた。車で20分ほどの道のりはあっという間だったはずなのに、今日は永遠に続いている気がする。走っても走っても終わりが見えない。同じところをぐるぐる回っているけど、それを気づくこともできないような色のない世界に迷い込んでしまったようだった。
音もない。無音の世界がずっと続いた。
家の前に着いて、「ありがとう。」それだけ言って車を降りた。深澤君も何も言わずに頷いただけだった。真っ暗な世界に光っている深澤君の車が見えなくなるまでその場から動かなかった。

部屋に入ると、化粧も落とさず服も着替えないでそのままベットに体を委ねた。深澤君のベットより小さいシングルのこのベットに。まるで底なし沼のようにどんどん体が沈んでいくようだった。沼に包まれて閉じ込められて呼吸もできなくて苦しいはずなのに、今はそれでいい。それがいい。そうじゃないといけない。そう感じた。下の方に進んでいくとそこには透明のただの水が広がっていた。上の方にさっきまでいた茶色の沼が見える。それが洗い流されていく。キラキラのつぶつぶが上の方にいくのが沢山見えた時、目が覚めた。
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