タツナミソウ
チリリリリリリ_______________________。

「うわ。びっくりした。」

消し忘れていたアラームが私を呼んだ。いけないもうこんな時間だ。早く準備をしなくては、、、。携帯を閉じた。翔平のメッセージへは既読という文字を残したまま。

「ふぅ〜。」

昨日お酒を飲みすぎてしまったせいだろうか。いつもと同じ時間から準備を始めたはずなのに時間がかかってしまった。ギリギリに家を出て会社に着いた。舞と深澤君が来るのを裏口で待っていた。
そういえば、、翔平君へのメッセージ返してなかったんだ、、。まずい。よし返そう。携帯を開いた瞬間、冷たい風が強くふいた。結んでいる髪の毛の中から前髪の横の短いのが出てきて目にかかった。邪魔で払うように顔を横にふった瞬間、時が止まったように吸い込まれた。目の前の彼に。彼はそのまま動けなくなってしまった私の手を強く掴んで、小さな路地へと連れて行った。振りほどこうとしてもびくともしない自分の腕が怖かった。
翔平は立ち止まって振り返り、涙目の幸子を見て手を離した。幸子の腕についた自分の手の跡が消えた頃に、震えて小さくなった幸子の両手を包んだ。

「ごめん。見たら止まらなくなった。メッセージ読んでくれてない?それとも読んだけど返してくれてない?」

「あ、あのね。読んだんだけど、時間なくて返せなくて今返そうとしてたら翔平が来たの。ごめんね。」

多分声が震えてしまった。私の手を握りながら話してくれている翔平君の手は暖かいはずなのに何故かかじかむ。まるで真っ白な雪を素手で触って自分の身長より高い雪だるまを作ったかのように。暖かい缶のココアが一瞬で冷たくなってしまうくらいに。

「そっか。俺変な事言ったから避けられてるのかと思ってさ。居ても立っても居られなかった。」

「違うの。私も本当は翔平君と話したかったんだけど変な意地張ってたの。私の方こそ子供なの。ごめんね。」

「じゃあ、おあいこだな。てかさ、もう君呼びやめない?」

下を向いて、歯を出して唇をふにゃふにゃにしながら笑った翔平を見て心の穴がきゅうっと小さくなる気がした。相変わらず真っ赤の耳に銀色のダイヤ型のピアスが光って、私の視線を奪っていく。翔平はそれに気がついたかのように、手で覆い隠す。

「うん。翔平!これからもよろしくね。」

自分で言っといて何がよろしくなのかよくわからないけど、わからない方がいいのかな。
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