タツナミソウ
「あ、翔平君?ちょっといいかな?」

3人でバイバイをして、会社に入ろうとした時、深澤君が翔平を呼び止めた。
翔平と深澤君が話す事ってあるのかな?あ、昨日の話、深澤君に聞いたって言ってたもんな。その事なのかな?

「じゃあ、先行ってるね!!またね、深澤君〜!」

そう伝えて、舞と2人でドアを開けた。ドアが閉まるまで深澤君は手を振ってくれていた。その隣の翔平の顔が暗かった気がした。怒っていたのかな?悲しんでいたのかな?なんでだろ。わからない。だけど、あの2人なら大丈夫だよね。

___ガチャン。

帽子を被って髪の毛が出ていないか確認してロッカーのドアを閉めた。舞はロッカーに置いてあった化粧道具を使って、高速化粧をしていた。聞きたくないような気もしたけど、何も触れないのも変だから昨日の事を舞に問いかけた。

「昨日さ、あの後大丈夫だった?」

明らかに舞の目が泳いだのがわかった。

「うん!朝になったら起こされてさ、びっくり!ごめんね、幸子にも迷惑かけたみたいで!今度奢るから許してね。てかさ、それより!昨日そのまま寝ちゃったから肌荒れやばくってさ、化粧もできなかったし。あいつの家さ、化粧水すらないんだよ。今時男でも化粧水くらい塗るよね?おかしくない?しかもさ、しかもさ、、」

舞は嘘つきだ。昨日何かあったんだ。それが舞が後ろめたい何かなんだ。まだ今朝の事を色々話しているみたいだけど、耳に入ってこない。ずっと前に舞が話していた事を思い出した。「いい?女は聞き上手の方がモテるのよ。あ、でも自分からあまり話さないで相手の話した事に相槌を打つっていうのが聞き上手だと思ってる?それはダメなのよ。私だってお話好きでしょ?それでいいのよ。自分を潰す必要はないの。でも、相手の顔を見ないで永遠に話し続けるのはNG。余裕がない人がやる事だわ。つまりね、相手がお話好きな人なら、うん。とかそっかだけで返すんじゃなくて、上手く自分のこともねじ込むの。相手に話す時間を与えさせないの。やりすぎると自我が強すぎる子だと思われるから気をつけてね。逆に、話さない人ならその人をどんどん引き出すような方に持ってくの。長く話さなきゃいけない質問をするとかね?それをするだけでこの子といると自分は素を出せるとか勘違いするのよ。相手に合わせてるように見せて、実は全部合わせてもらってるのよ。他の人には悟られないようにやるの。それが聞き上手なのよ?」今の舞は全然聞き上手じゃない。私の顔を見ないで自分の話ばかりしている。それってさ、余裕がない証拠なんだよね?
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