タツナミソウ
そんな事を考えながら、しばらく黙って彼を見ていると

「あの、えっと、幸子さん?ですよね?」

「え?あ、うん。もう下の名前まで覚えてくれたんだありがとう。」

「いや、そうじゃなくて、俺亮太の弟です。覚えてませんか?」

翔平君が私の事を覚えている事に驚いた。
たしかに家にもよく遊びに行っていたが、10年も前のことだから。

「もちろん覚えてるよ。まさか同じ職場になるなんてね。わからない事があったらなんでも聞いてね。」とお利口な口が勝手に動いた。「ありがとうございます。また幸子さんに会えて嬉しいです。」と翔平君は、今日の空から青色が消えたような顔の色をして、左の耳を触りながら言った。

その姿がとても愛おしくて、このままさよならしたくなかった。

「今日空いてる?久しぶりだし、ごはんでも食べに行かない?」

また口が勝手に動いた。


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