タツナミソウ
「話し聞いたよ。私の事、かばってくれたんだよね?ありがとう。」

それまでずっと怖い顔をしていた深澤君が、「はぁー。」と大きなため息をつきながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「ごめん。カッコ悪いよな。結局あんな大事にしてさ。嫌な思いさせただろ?」

どうして謝るの?何も悪い事してないのに。むしろ助けてくれたのに。たくさん伝えたい言葉が出てきたけど、うまく口に出せないのがもどかしくて、深澤君の優しさに安心して、涙が溢れ出てしまって止められなかった。泣いてしゃがみ込んでいる幸子を見た深澤はオロオロしながら「ごめんな。怖かったよな。」そう言いながら背中をさすり続けた。

「今言う事じゃないと思うけどさ、宮下も目黒が嫌いでやったんじゃないと思うんだよ。てか、むしろ逆だと思うって言うかさ、まあ今は許さなくていいからさ、その気持ちだけは覚えててやって。本当、ごめんな。守れなくて。」

深澤君は私が泣いている間ずっと、ごめんなとかあいつも根から悪い奴じゃないんだとか、宮下君の事を一度も悪く言わなかった。それにどうして私の事をそんなに気にかけてくれるのかな?それとも、私じゃなくてもこんなに優しいのかな?深澤君の事をもっと知りたくなった。仲良くなりたい。高校に入って初めて男の子で友達になりたいと思った。

「私のためにありがとう。」

本当はもっと感謝を伝えたいけれど、口に出してしまったら、また涙が止まらなくなりそうでこれが精一杯だった。深澤君の瞳に映った私は、とても上手く笑えている気がする。それなのに「無理に笑わなくていい。今は俺しか見てないから。」とか言い出すから我慢できなくなってしまった。緩んでいたストッパーは完全に外れてしまった。ずっと隣にいてくれた深澤君は「俺が絶対守るから。不幸にさせないから。約束する。」と言って私の小指に自分の小指を絡めた。本当にどうしてここまでよくしてくれるのかわからないけど深澤君がいい人なのは充分わかった。その後、深澤君と仲良くなるのに時間はかからなかった。
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