タツナミソウ
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「で!何があったの!」

深澤君のお店に着くなり椅子に座らずに、カウンターに両手をついて問いかけた。
深澤君の口元にも殴られたような傷ができていたのに気がついた。2人とも何があったのか教えてくれないし、相手に聞けの一点張り。

「もう!私にくらい教えてくれても良くない??2人とも何?」

ため息をついてガンッと大きい音をたてながら椅子に座った。両肘を机に乗せて頬杖をついた。頬をめいいっぱい膨らませて深澤君を見つめた。

「手、、、。」

「ん?手がどうしたの?」

「だから、手出して。」

深澤は決して目を合わせないようにして、幸子に手を出すようにと、自分の右手を差し出した。
手なんか見てどうするんだろう。と不思議に思いながら右手を深澤君の手の上に重ねた。「逆、、。」と言われて今度は左の手のひらを上にして重ねた。首を傾げて斜め上の深澤君の顔を見た。指先を優しく握って、クルッと手の甲を上にして、私の手首を確認した深澤君は悲しい顔をした。

「やっぱり、これあいつにやられたんだろ?」

何のことだろう。自分の手首を見ると、爪で引っ掻いたような痕と周りがすこし青くなっていた。とっさに深澤君の手を振りほどき右手で左の手首を隠した。朝家を出る時にはなかったこの傷に今日1日中気がつかなかった。痛くもなかったから。でもいつできたのかはすぐにわかった。

「あれ?なんだろう?これ。どっかに引っ掛かっちゃったかな。大きい物とか持ってると、よくひっかけちゃうんだよね。」

ハハハと笑って誤魔化した。自分でも下手くそすぎるとわかっている。目のキョロキョロが止まらなくて頭が回りそうになる。だから前髪を整えるフリをして頭を支えた。

「幸子、、。誤魔化さなくていいから、、、。ちょっと座って待ってて。」

深澤はお店の看板をクローズにしてバンダナを外して、幸子の隣に座って横を向いた。幸子も深澤の方を向き両手を膝の上に置いて下を向いている。その小さな手を深澤はそっと包み込んで自分の額を幸子の額に重ねた。

「一回しか言わないから、よく聞いて。俺な、幸子の事が好きなんだ。初めて話したあの時からずっと。幸子はよく俺の事お兄ちゃんみたいとか言うけど、そんなの全然嬉しくなかった。けど、そばにいられるならそれでもいいと思ってきた。でも、もう我慢はしない。俺が幸子を守りたい。」
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