タツナミソウ
何を作っているのかな。まだかな。そんな事を考えていた。

___ガチャ。

お店の扉が開いた。閉店のはずなのにどうしてお客さんが来るのかな。視線をずらした。

「、、、え?」

どうして?驚いて固まってしまった。そこには翔平が立っていた。そういえば、翔平と深澤君が喧嘩した理由をまだ聞けていない。

「お、いらっしゃっい。幸子、俺が呼んだんだ。」

深澤君はそう言うとお茶を出して、翔平を私の隣に座らせた。

「どうして?」

戸惑いを隠せず、2人に問いかけた。どうして呼んだの?どうしてきたの?どうして喧嘩したの?聞きたい事が頭の中で渋滞を起こしている。どうやら、私が深澤君に連絡した後、深澤君は翔平に連絡をしてもともと3人で話す予定だったらしい。さっきの話を翔平に聞かれていたらどうするつもりだったのかと言いたかったけれど、そこはグッと堪えた。

「で!2人は何でそんな殴っちゃうくらいの喧嘩になったのよ!」

2人とも下を向いてしばらく黙った。私は目の前にあったお茶をグビグビと音を立てて飲み干した。私の姿を見て翔平が笑うと、暗い空気が流れていたお店の中が一気に明るくなるのがわかった。その笑顔がうざったくて、翔平の頬をバシッと両手で挟んでぐりぐりした。「なんだよ。」と言いながら翔平は幸子の手首を掴んで下に思いっきり振り解いた。

「いった、、、。」

朝できたであろう傷にちょうど触れて、声が出てしまった。

「大丈夫か?」

カウンターを隔てて奥のコンロの方にいたはずの深澤君が目の前に立ち膝をついていたから驚いた。深澤君は私の手に優しく触れて、とても切ない顔をした。

「これだよ。俺らが喧嘩した理由。あの時、幸子さ、舞ちゃんに手差し出してただろ?それで気がついたんだ。昨日はそんな傷なかったから、翔平君に何があったのか問い詰めた。それで俺が殴って、反射的にに翔平君も俺を殴ったんだ。それだけ。」

「なにそれ、なんで私なんかのために人殴ったりするの。」

「、、、。」

「ねえ、。2人とも!なんか言ってよ。たったそれだけの事で感情的になって手が出るなんておかしいよ。」

2人はしばらくの間黙っていた。どのくらいだろう。多分、カップ麺が10個とかできるくらい?ちょっといい女がお化粧にかかる時間くらい?なんて嘘だ。ほんの数分だったと思う。でも、私にはそれくらい長く感じた。いや違う。私達にはそれくらい長く感じていたが正しいのだろう。きっと。
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