タツナミソウ
翔平は何も言わずにただ深澤を黙って見続けた。深澤も翔平から目を離す事がなかった。暗い青紫の空気が流れた。
2人の言っている事が全然わからない。何回も言うけど本当に全然わからない。翔平君が私といるのは亮太の事があるからっていうだけで、それ以上でそれ以下でもない。深澤君はそれを知らないからそういう勘違いをしてしまうのだ。否定する事もできないし、何も言い返す事ができない。翔平も何で否定しないの?ちゃんと言ってくれないと私も勘違いしちゃうから、お願いだから、何か言ってよ。

「じゃあ、もう用事は済んだって事ですよね?幸子さん連れて帰りますよ。」

翔平はそう言うと、私の手をとってお店のドアを開けた。振り解く事もできたはずのその手を握り返した。

「深澤君、、、。またね。」

後ろを振り返った。深澤君は笑顔で手を振っていた。「またね。」口パクでそう言っていた気がする。

駅までの道を手を繋いだままゆっくり歩いた。ちょうど残業が終わりの人達と沢山すれ違った。そんなに早く行きたいのだろうか。みんなとてもせかせかと歩いていた。
駅に着く直前の曲がり角を逆側に進んだ翔平はどんどん人がいない方へと向かっていった。私も何も言わずに着いてきたけど、太陽も身を隠して、無言の時間も怖くなってきた。

「ねえ?どこ行くの?」

握っている翔平の手をグッと引っ張って立ち止まった。

「あの場から連れ出したはいいけど、その後カッコいい言葉が言える訳でもないし、もう駅に着いちゃうした思って、まだ一緒にいたかったからとりあえず逆に来たけど、どうしたらいいのかわからなくなって、、、。今に至ります。」

小さな声でもじもじしながら話す翔平を見て、ぷはっと笑いが出た。「笑うなよ。」と言いながら頬を膨らませている翔平の耳は真っ赤に染まっていた。亮太と同じ顔のはずなのに全然違う彼の事をどんどん気になっている自分を隠せなくなってしまった。気がついた時には私の手は彼の頭の上にあって、ふわふわと猫の毛のような彼の髪を触っていた。びっくりしている彼の瞳に反射した自分の初めて見た顔に動揺した。バッと離した目線と手の行き場を失って、とりあえず自分の髪の毛を触ってみた。

「あのさ、亮太に会うためだけじゃなくてさ、私達もちゃんと友達?にならない??もっと翔平の事知りたいんだけどだめかな?」

友達、、、。そうだ。私は亮太が好きなんだから翔平とは友達として仲良くなりたい。そうだよね。弟君と友達になりたいってちょっとムズムズするけど変じゃないよね?
言い終わってから、恐る恐る見上げて翔平の顔を見た。
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