王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
「今から洗礼を受けてもらいます。呼ばれた家
から祭壇の間に入室してください。」
少しすると神官様が戻って来てそう言った。
「まずはルビーノ伯爵家様──。」
あっ、あの素直じゃない子のところからか。
それからいくらか経って最後に私たちの番になった。どうやら身分が低い順だったみたい。
両親と兄様と祭壇の間に入ると、奥にサッカーボールぐらいの大きさの水晶玉が祭壇の上に置かれていた。その向こう側には綺麗な女神像が立っている。
洗礼はあの女神像の前に座り、祈ることだけでいい。楽だ…。
属性確定は学園に入学前にも行うらしいが、大抵洗礼と一緒に受けるみたいだ。
水晶玉に両手をかざし、魔力をできるだけ全力で流し込むことで分かると、以前お母様が教えてくれた。
なぜ全力でなのかというと、それで魔力量の数値も同時に測るから。まぁ、全力でなくてもできるらしいけど。
まずは兄様からだ。
兄様が女神像に祈ると周りに少しほわほわした何かが集まりだした。
まるで映画のワンシーンのようでとても綺麗。
両親と神官様の方を見ると、なぜかとても驚いた様子でその光景に目を見張らせていた。
お父様と神官様は腕をつねって現実か確かめていて、お母様は両手で口元を抑えて
「嘘…こんなことが……」
と呟いていた。
「…。お父様?お母様?どうしたのですか?何か
おかしいですか?」
「……」
お父様は黙り込んでいる。
「…!い、いいえ。おかしい訳ではないの。
アンジュ、あのぼんやりしたものは妖精なの。
妖精は精霊の子供みたいなものね。」
「あれも妖精か…。精霊の子供なのか…。」
へぇ〜。それは初めて知ったよ。でも…
「それがどうしたのですか?」
そう、それが不思議。だって、
「こんなに希薄なのではなくて、はっきりした
妖精と精霊と何度も兄様も一緒に遊んでまし
たよ。だから…」
“だから、どうして驚いてるのですか?”
そう続けようとしたら、すごい勢いで口をはさまれた。
「なんですって!何度も遊んでた…?!しかも、
はっきり見えてたのね……。」
最後の方は独り言のようになってた。
「アリス、アンジュ。今は洗礼に集中して、そ
れは後に話そうか。正直、僕自身すごく気にな
るけど…。」
お父様が我にかえって言い、私たちは兄様に再び集中した。
いつの間にか兄様は祈りを終えていて、集まっていた妖精たちは消えていた。
「ではザライド様、水晶玉に両手をかざして、
魔力を流し込んでください。」
「はい。」
兄様が神官様が言うのを聞いてから、両手をかざし、魔力を流し込んでいくのが分かった。
すると水晶玉に赤、青、茶、銀、緑、金の6つの玉が浮かび上がってきた。
「さすが、エルドラード公爵と、そして優秀魔
術師アリスフォード様の子息ですね!!
なんと火、水、土、風、植物、光の属性持ちで
すよ!6全属性持ちだなんて凄すぎますっ!しか
も、魔力量も5万と平均的な貴族の大人の3万を軽
く超えています!!」
神官様は興奮した様子で、後半早口で告げた。
その時、私は見た。
6つの玉がすぅっと消えたかと思うと、虹色とセピア色の2つの玉が水晶玉の中に浮かび上がってきたのを。
そしてそれは、私以外には誰にも知られることなく、見えなくなった。
「ありがとうございました。」
兄様は、5歳とは思えないほど冷静にお礼をして私の方に戻って来た。
「すごいですね、兄様。」
「ありがとう、アンジュ。」
私がそう言うと、少し照れたように笑う彼。
その表情に思わず見惚れかけた。ほとんど私と同じ顔なのに兄様だとなんだか違う…。
その様子をお父様とお母様が、微笑ましそうに見ていたのに気づかなかった。
「アンジュ様、どうぞ。」
神官様に呼ばれた。
さぁ、次は私の番だ。