王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
愛し子
あれからすぐに馬車で教会から帰宅した。なぜか不自然なほど誰も何も言わず、いつもより緊張した空気が漂っていた。
家に帰り着いた途端、お父様とお母様は示し合わせたかのように口を開いた。
「「ザライド、アンジュ。」」
「「はい。」」
「話したい、聞きたいことがあるんだ。」
「着替えてから応室間に、2人で来てくれない
しら。」
「「分かりました。」」
多分、教会でのことだろう。丁度いい。私たちも聞きたいことがあったから。
私と兄様の部屋は隣同士なので、一緒に向かう。途中、何人かの使用人が私を(たまに間違えて兄様を)抱き上げて部屋まで連れて行こうとするが、慣れたものなので私たちはするりとそれを躱す。
稀に私たちを捕まえられた運のいい?者がいるが、出来た者は大抵機嫌が良くなり、周りはその人物を羨ましそうに見ている。
それのせいで最初の頃より減ってはいるが、抱き上げようと試みる者は後を絶たない。
無事、捕まえることなく部屋までたどり着いた私たちは、一緒に行くことを言外に確かめて、それぞれ中に入った。
私の部屋は子供、または公爵令嬢らしからぬシンプルな部屋だ。色は全体的に淡い色合いで、茶色の3人掛けソファーが2つとそれに合わせたガラステーブル、勉強や調べ物などをする時用の机と椅子、近くには大きめな本棚と飾り棚が1つずつあり、天井ではシャンデリアが輝いている。
唯一子供っぽいのは、ところどころにぬいぐるみが置いてあるところのみ。
ただ、これは前世からの趣味なので今後も変わらないと思う。
奥にはベットルームがあり、お嬢様らしい天蓋付きベットと現代のワンルームぐらいの広さはあるのではないか、というほどのクローゼット、そして淡いピンク色のウサギのぬいぐるみがベットサイドの机に置いてある。
窓からは、庭園に植えられた花々と青々とした森が見える。いつか抜け出して兄様と探検しに行こう。
私付きの侍女は前もって準備していたらしく、すぐに簡素なワンピースに着替えさせてくれた。
「あぁ、やっぱりお嬢様は何でも可愛らしく着
こなされますね!この役を勝ち取ったかいがあ
りました。」
「ありがとう、マリン。でも、勝ち取ったって
どういうこと?」
私が首を傾げて問うと、マリンは
「いえ。お嬢様付きの侍女役はとても人気でし
て、私はなんとかしてこの役をもぎ取ったんで
すよ。」
ふふふっと、笑いながら答えた。その笑みは、凄まじい使用人達の激戦を想像されて、思わず背筋が冷たくなった。
マリンは、ある男爵家の令嬢で、現在11歳。本来、女性は貴重で、使用人なんかしないのだが、ウチに感謝していることがあるらしく、3年前から働いている。
ウチでは、マリン以外にもあと2人女性が働いている。1人は、私がこの世界に生まれた時、側にいたメイドさん、マーガレットだ。彼女も私付きの侍女だ。もう1人はお母様付きの侍女らしい。
マリンとマーガレットには婚約者が5人いるらしく、使用人として働くことに5人とも理解を示してくれているみたいだ。
マリンとマーガレットがいてくれて良かった。じゃないと従者が男の人になってたからね。それは元・女子高生な私にはきつかっただろうし。
「アンジュ、準備出来た?」
兄様が扉を叩いてから、呼び掛けてきた。
「はい!今行きます。」
急いで扉を開けると、同じく着替え終えた兄様がいた。やっぱり兄様は何でも似合うな〜。
「行こうか。」
何も言わず、そっと手を握ってきた兄様の優しさを感じながら、応接間に向かった。