王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
さて、書庫に行こう。
あの2人?
大丈夫大丈夫、ただ、料理長の鉄拳が繰り出されるだけだから。
そう、気にしたら負けなんだよ、これは…。
「あ、そういえばアンジュ。これ、さっき料理長
から貰ったんだけど」
そう言って、兄様がポケットから取り出したのはラッピングされたクッキーだった。
「本を見つけた後に、僕の部屋に来て一緒に食べ
ない?」
「え、いいんですか?!」
「うん、もちろんだよ」
やった!丁度甘い何かを食べたいと思ったところだったから嬉しい。
料理長、会うたびに何かくれるんだよね。きっと子供が好きなのかも。
…そういえば、兄様と一緒にいる時は私じゃなくて必ず兄様に渡してるな。しかも、私が気付かない内に。なんでだろ?
うんうん1人で考えていると、微笑ましそうに兄様がこちらを見ていた。
「…?ザライド兄様、どうしましたか?」
「あぁ、いや、僕の妹兼婚約者はかわいいなって
思って」
「…っ!に、兄様!?」
ちょ、ちょっと兄様、不意打ちはダメだって!
おかしい、私前世16歳の現役JKだったんだよ。少しオタクではあったけど、ショタコンではなかったはず。
なのに、なんでこんなに動揺してるのさ!
お、落ち着け私。そう、これは兄様も悪いんだ!
だって、兄様とても6歳児には見えないもの。
なんていうのかな、こう、年上に見えるんだよね。落ち着いてるし、偶に何故か少し色気を漂わせてるし。その上、眉目秀麗で、今は可愛らしい顔立ちをしてるのにカッコいいし。
あれ?兄様、無敵過ぎない!?
だって、今日は更に愛し子っていう貴重な肩書きまで加わってるし、レクイエム帝国の王位継承権第2位の王子でもあると判明したし。まぁ、それは私もだけど…。
またもや歩きながら考え込んでしまい、百面相を晒していたことには気づかなかった。
「…本当、僕のアンジュはかわいいなぁ」
だから、兄様が小さくそう呟いていたことも気づかなかった。
─でも、気づかなかったのは逆に良かったかもしれない。何故なら、その時のザライドはアンジュにどこか仄暗い笑みを向けていたのだから。