王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
「…どうしたの、アンジュ?」
袖を掴まれたことに気付いた兄様は魔力操作・放出を中断し、少し俯いた私の顔を覗き込んできた。
「……が…ぉ………って…」
「ごめん、もう1回言ってくれないかな」
「に、兄様が遠くになってしまうように思えて…
私を置いてどこか行ってしまうと…怖くなっ
て…」
掴んでいた袖を更にギュッと握りしめる。
分かってる。私達は双子で婚約者同士だといっても所詮は他人で。今は一緒でも、進む道がこの先もずっと同じではないことぐらい。前世も合わせたら22年生きてるんだ。だから、そんなこととっくの昔から分かってるはずなのに。
兄様と離れるかもしれないと考えるだけで、こんなにも怖い。もしそんなことが起こったら、持てる力全てを使って阻止しようとするのが鮮明に想像出来てしまう。
おかしい、これじゃあ私が私じゃないみたいだ。
「………」
「………」
流石の兄様も、呆れてしまったかな。こいつは何言ってるんだろうって。
「…アンジュ」
ふわりと、何か温かいものに抱き締められた。
「に、さま…?」
「大丈夫、僕は君を置いて遠くに行かないよ」
そのまま、まるで割れやすいものに触れるかのように、優しく優しく頭を撫でられる。
自分とそれほど背丈は変わらないのに、不思議と包容力があって、この場所(兄様の腕の中)は安全で安心できると思い、無意識で優しく撫でるその手に頭を擦り付けた。
✻
「…っ!…ほんと、アンジュは僕を煽る天才だ
ね…((ボソッ。 アンジュ、こんなこと僕以外の人
にしたらダメだからね」
「こんなこと…?……ハッ!ち、違うんです兄様!
これは無意識のうちにしてしまっただけで…っ
て、あぁ今の忘れて下さい!」
思わず更に墓穴を掘ってしまったアンジュは、普段は白い頬を真っ赤に染めて慌てている。
「へぇ、あれ無意識だったんだ…。それは嬉しい
な。アンジュにとって僕は甘えられる存在だって
いうことの表れだからね。…ふふっ、耳まで真っ
赤になっちゃって…かわいいね」
ザライドは、6歳の子どもには到底出せないであろう、どこか妖艶な笑みを浮かべながら最後のセリフをアンジュに囁く。
「あ、あぅー………」
その笑みを直視してしまったらしいアンジュは、顔を更に真っ赤に染め上げて、ただ口をハクハクとさせていた。
「(あー…どうして俺の従甥❨じゅうせい❩と従姪
❨じゅうてつ❩はこんなに可愛いんだろう…。本当
天使だよなぁ。そうだ、2人の天使を見守る会を
作ろう。俺は勿論隊長だな)」
一方、その様子を少し離れた場所から観さt…見守っていたアルは2人の可愛さに悶えていた。そうして悶えに悶えた結果、思考回路はおかしな方へとぶっ飛んだ。
これが、後にこの世界初めてのファンクラブとなった“天使会”の設立秘話である。