王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
過去編
桜との初対面は少し、いやかなり変わっていた。
あの日は確かそう、中学の入学式だった。
私の親はいわゆる転勤族というもので、多くて数年に1回は引っ越しをしていた。
今回のもそうで、初めて来た街には当然知っている人なんて皆無で。その日は、教室内で周りが親しげに会話をしている中、1人ぽつんと所在ない心地で静かにやり過ごした。
明日からはまた友人作りを頑張ろう、と決意を新たにし、今朝とは逆向きに正門をくぐった時だった、彼女に声をかけられたのは。
「君、たしか同じクラスだったよね!こんな田舎
に同級生の子が引っ越してくるだなんて思ってな
かったから嬉しいなぁ。あ、私は桜。成宮桜。君
は?」
第一印象は、男女ともに好かれそうな、快活な笑顔が似合う一軍の陽キャ美少女。
「え、あ、…相模ほのか、です…」
「そっかぁ。あ、ほのかって呼んでいい?私のこ
とは桜でいいからね!」
「あ、はい、大丈夫です…。桜、さん?」
普段は関わらないようなタイプの人種だったのもあり、(自称)本の虫&図書室の住人で、二軍でも下の方の陰キャだった私は軽くテンパって何故か敬語口調だった。
「んー…別に呼び捨てでいいんだけど…まぁいっ
か」
そう小さく呟いたかと思うと、桜はいきなり特大の爆弾を、なんのためらいもなく放り込んできたのだ。
「ほのかはさ、攻めの反対って何だと思う?」と。それはそれはイイ笑顔で。
「……はい?」
一瞬本気で何を言ったのかが理解できなくて、思わず脊髄反射でそう声をもらしていた。
いや、言った内容も意味合いも、その意図も勿論分かってはいたんだ。こちとら何年もオタクしてたからね。しかも、私はかなり守備範囲が広かったから。基本地雷無いし。
でもさ、一体誰が一軍のキラキラした女子、それも上位っぽそうな子の口から、どうして腐仲間を確認するための王道的定型文が飛び出してくると思うだろうか。しかも一応、この時の私達は初対面である。会話も初めてだ。当然私は想像すらしたこともなかった。
「だから、攻めの反対はn…」
「いえ、それはいいんです」
「あ、そうなの?で、ほのかは何だと思う?」
「……桜さんってもしかして腐じょsh…腐界の民
なんですか?」
明確な解答は避けた上で、当時の私はそう思いっ切って聞いてみたのだ。途中で、もしかしたら隠れなのかもしれないと思い至ったので、微妙にぼかしつつではあるが。
多分、この返答をしたから、桜と唯一無二の親友になれたのでは?、と今思い返して思う。あと、あれじゃ全く誤魔化せてない気がする。