王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
現在
「また会えたのは嬉しい…けど、なんで貴女がこ
こにいるの?」
抱きしめ合っていた腕の戒めをそっと解き、正面に向き合って真っ直ぐにその桃色の瞳を見つめる。相変わらず綺麗で強い意思を持った瞳は、動揺して僅かに揺れていた。
「…ごめんね、ほのか」
桜はそう言いながらスッと目線を横にそらした。
「そんな言葉が聞きたいわけじゃない」
そう言いたかったが、申し訳なさそうに眉を下げて悲しそうに微笑んでいる、らしくないその表情を目にした途端に言葉が詰まってしまった。
私まで黙ってしまったため、どこか気まずい空気が流れる。
「……ねぇ、2人はいつの間に知り合いになって
いたのですか?アンジュは普段屋敷から出てない
はずだよね」
「あぁ、それは俺も気になっていました。あ
と、“サクラ”に“ホノカ”だっけ?どうやら話の流
れ的に2人のことらしいですが、聞き慣れない言
葉ですよね」
今まで黙って様子を伺っていた、兄様とシュメルク様が訝しげに尋ねてきた。
当たり前か。
初対面だったはずの妹達が、お互い昔からの知り合いかのように振る舞い、会話をしていた。しかも、聞き慣れない言葉の名前で呼び合って。
「(桜、どうする?)」
「(どうするって…何を?)」
「(分かってるでしょ?私達の真実をカムアウトす
るかどうかってことだよ)」
「(そうだね…まぁ、お兄様達なら信用できる
し、しちゃおうか。それに、このまま誤魔化すの
も無理だしさ)」
「(それはまぁ…確かに。どこまで話すかは、そ
っちに任せるよ)」
「(オーケー。んじゃ、補足はよろしく)」
目線だけで話し合い、同時に頷く。
そして、兄様達と向き合った。震える手を誤魔化すために、勇気を奮い立たせるために、後ろの方で桜と手を繋ぐ。
「わたくし達、お兄様達に話したいことがありま
すの。先程の疑問にも答えます」
「シュメルク様、どこか完全に4人だけになれる
場所はありませんか?」
私達言葉から、それが信頼できる者にしか聞かせてはならない、重大なものだと分かったのだろう。
兄様とシュメルク様は、まだ幼い顔を引き締めて頷いた。
「分かりました。その条件ならば、俺の温室が丁
度良いでしょう。こちらです、ついて来て下さ
い。…カトリシア、君の秘密、全て話してもらう
からな」
そう言ってシュメルク様は、お茶会のテーブルとは反対の方にスタスタ歩いていった。
「…アンジュ、僕もシュメルクと同意見だ。だか
ら、質問の手加減はしない」
すれ違いざま、私だけに聞こえる声量でそう告げた兄様は、何事もなかったかのようにシュメルクの後を続く。
「……行こう、ほのか」
「…うん。行くよ、桜」
私達は繋いだ手を更にギュッと握り締め合うと、2人揃って兄様達の後を追った。