王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
シュメルク様の温室は、かなり透明度の高いガラスで出来ていた。近付いてみて分かったが、十数枚に1枚ぐらいの頻度で繊細な意匠で、グラナート侯爵家の紋章や蔦模様などが施されたものもある。
透明ガラスだけでも非常に高いのに、更にそれに模様が施されているとか…一体幾らするんだろう…。うぅ、考えるだけで怖くなってきた。
「へぇ、すごいな。ここのガラスには、かなり強
力な魔法陣が付与されている。これは…内部の対
象者を守る、その一点に特化させた防御魔法
か…」
「流石ザライド様です。この魔法陣は緻密に隠さ
れているというのに…よく分かりましたね。俺も
まだまだなようだ」
「ということは、これはシュメルク様が?」
「えぇ、ここにはカトリシアもよく遊びに来るの
で」
「大切な人を守るものは、自分で施したいですも
のね。僕もそうなので、よく分かります」
「ザライド様も何かしているのですか?」
「いいえ。僕はこの間魔法を教わり始めたばかり
なので。まだ応用の効く魔法が使えないのです」
「あぁ、そうなのですね。…もし良ければです
が、俺がザライド様の練習に付き合いましょう
か?」
「いいのですか?それは有り難いです」
兄様2人は私達の前方で、何やら盛り上がっている。年齢の近いの人と、あんなに楽しそうに話している兄様を初めて見た。まぁ、私は屋敷からほとんど出たことがないというのもあるのだろうけどね。
嬉しいことでもあったのか、2人は顔を突き合わせて普段より年相応な表情で笑い合っている。
「ふふふ腐腐…」
かと思うと、すぐ横から微かに腐臭がし始め、小さな不気味な笑い声が聞こえてきた。
あぁ、そう。“それ”は転生しても変わらなかったのね…
「あぁ、実に素晴らしいショタ×ショタでしか取
れない栄養があるしお兄様とザライド様だったら
お兄様タチでザライド様ネコかないややっぱこれ
はリバだなそうだそれに違いないピー---でピー
-----してピー---とかなったらマジで全
私が尊死して萌え禿げるわ絶対…。ハッ、そうか
ここはエデンの園だったのか…」
……聞いた記憶なくならないかな。
幸いなのは、小声でずっと呟いてたから私以外には聞こえてないだろうってことぐらいだな…。聞こえてた私は恐怖だったけど。というか、転生前よりも腐度が悪化してない??大丈夫??
それにしても、緊張感というものが(元)桜にはないのだろうか。中に入ったら私達の話をしないといけないというのに。
「はぁ…桜、早く戻って来ーい」
耳元でそう言ったが、それでも戻って来ないので、その形の良い額を軽くデコピンで弾いた。
「!?!?!?!?!?」
突然与えられた衝撃に驚いた桜は、目を白黒させながらその額を両手で抑えていた。瞬時にそれの犯人なのが私であることを把握したらしい桜は、私を湿った上目遣いで見た。顔には何故?と書いてある。分かりやすっw
「腐るのは別にいいけど、時と場所を選びなよ」
「あはは…。最近供給が少なくてね…ついやって
しまった」
「それはバレないよう気を付けなよ」
「大丈夫大丈夫!私が何年隠れをやってると思っ
てるの?今世も入れると10年以上だよ。これでも
擬態は得意だからね」
「それならいいけど…」
心做しか心配は残るが、本人曰く10年以上擬態しているらしいので、一応納得することにした。まぁそれに、私も人のこと言えないしね。
「アンジュにカトリシア様、どうしました?」
「2人とも、早く入って下さい」
兄様とシュメルク様は、いつの間にか温室の出入り口手前に立っていた。そこから私達の様子を不思議そうに見ながら、早く来るように促している。
「「今行きます!」」
私達はギリギリ高位令嬢として、はしたなくない程度のスピードでそこまで駆けていった。