王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
カミングアウト
現在、私達は温室内にあった、向かい合わせの2人用ベンチに座っていた。席位置は、片方に私とカトリシア(桜)、もう片方に兄様とシュメルク様と、兄妹で向き合う形となっている。
この状態になってから約2分。その間、誰も何一つとして言葉を漏らさなかった。聞こえるのは、外にいる美しい小鳥の鳴き声と、温室内に作られた小さな人工滝がたてる水音のみ。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
痛いほどの沈黙を破ったのは、カトリシア(桜)の兄であるシュメルク様だった。
「…さぁ、話して貰いましょうか」
「えぇ、もとよりそのつもりですわ」
「始めの予定よりも話すのが随分早くなります
が…。この際、仕方ないでしょうね」
私達は目を合わせて頷き、同時に口を開いた。これで、もう後戻りはできない。
「「それではお話しましょう、私達の秘密を…し
かし」」
僅かにこちらへと身を乗り出した兄様達を視界に捉えたため、元に戻るよう目線で促す。姿勢を正したのを見届けてから、桜が口を開いた。
「これから話す事は、決して誰にも話してはいけ
ません」
「他の家族には、私達が時期をみて話します」
そこまで言って、窺うように一旦口を閉ざす。
「分かった。誰にも…父上達にも話さないから」
「了解した。それなら、他の兄弟にも話さない」
それぞれから異なる言葉での了承を得られたのを聞いて、再び桜から順に言葉を紡ぐ。
「到底信じられないような、馬鹿げた事を言うで
しょう」
「ですが、どうか私達を気味が悪らないで欲しい
のです」
それは、心の底からの懇願。
普通の家族に恵まれなかった、かつて地球の日本で生きていた2人の少女。彼女らは、今世で得た大切な家族から嫌われたくなかった。失いたくなかった。
だからこそ出た、唯一の願いだった。
「勿論だよ。例え世界中の人が君を気味悪がり、
嫌ったとしても、僕だけは味方でいると誓うよ」
「なにを当たり前のことを。どんなことがあった
としても、カトリシアを気味悪がるなんて、ある
はずないだろう」
兄様なら、そう言うだろうと分かってはいた。でも、分かっているのと、実際に言われるのとでは、全然違うね。すごく、気持ちが楽になったよ。
桜も同じだったのだろう。先程までの、緊張で固まっていた表情が若干緩んでいた。
そんな桜の背中を、前の2人にバレてないようにそっと叩く。もう話していいよ(私は準備できたよ)、というセリフの代わりに。
「…お兄様達は、前世というものを知っているで
しょうか?」
「前世…今の自分になる前の人生ということだろ
うか?」
「えぇ、大体その認識で大丈夫です。……実は、
私とほのか─アンジュは、その前世の記憶を持っ
ているのです」