王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい
「前世の記憶を…?」
困惑気味な表情をし、思わずといった様子でシュメルク様が繰り返して小さく呟く。
やはり、いくらなんでも荒唐無稽すぎる話だから、すぐには信じられないよね…。もし私がその立場だったらそうだもの。
膝部分のドレスの生地を両手で握りしめ、少しだけ顔を伏せた。あぁ、このままだとシワになってしまうな…なんて、頭の片隅でぼんやりと思う。
「到底信じられない…が、もしそれが本当なら、
今までの出来事に納得がいく。カトリシアは他の
令息令嬢と比べて、年齢のわりに大人びすぎてい
るからな」
「僕も同様です。アンジュは属性確定の時でしか
外に出たことがないので、本当ならカトリシア嬢
と知り合いだったということすら起こり得ません
から」
そんな声が聞こえて、バッと伏せていた顔を正面に向ける。そこには、両者共に、いたって真面目な顔をして会話をしている兄様達がいた。
否定しないでくれた…
その事実に、嬉しくなって涙が出そうになる。
しかし、それはそうとしてザライド兄様や。
私が教会以外の時に屋敷の外へ出たことがなかったのは本当のことだけどさ、そんな真面目くさった顔で言うことじゃなくないですか??私が引きニート生活を謳歌していたことが桜にバレたんだけど。
他の判断基準はなかったのか…。
あぁほら、桜が「えっ、引きニートしてたん??うわぁマジか。折角のファンタジー世界なのに勿体ない」って言いたげな顔をしてるよ。私だって楽しみたかったけど、仕方ないじゃないか。お父様達に屋敷から出してもらえなかったんだから。
「そもそも、カトリシア達が揃って同じデタラメ
を吐くメリットが存在しない。よって、前世の記
憶云々は恐らく、本当のことだろう」
「そうですね。それに、アンジュは利益を得ない
嘘や人を傷付ける嘘をつかない。シュメルク様の
話を聞くに、それはカトリシア嬢も同じ」
私達がそんなことをしている間にも、兄様達は会話をどんどん進めてゆく。メリットやデメリットの有無で考えるその姿は、ひどく貴族らしいと思った。
そろそろ、いいだろう。
桜に一瞬視線をやり、普段より重く感じる口を無理やり開く。
「兄様、シュメルク様。私達の言ったことは、普
通なら到底信じられない荒唐無稽なものです。…
それでも、信じていただけるでしょうか」
「「あぁ(うん)、当たり前だ(勿論だよ)」」
重なった異口同音の返答に、会話を聞いていて予想できていたとはいえ、かなりホッとした。無意識の内に身体に入っていた余分な力を安堵の息と共に抜く。
隣を見やると、桜も似たようなことをしていた。
同じタイミングでこちらを見てきた桜と顔を見合わせて、フッと微笑をもらす。その微笑は、それこそ年齢と幼い顔立ちに不釣り合いな大人びたものだった。