王子達は公爵令嬢を甘く囲いたい

王都へ!!

漢字(かんじ)
 
 あの日、桜─カトリシアと思わぬ再会を果たし、兄様達にカミングアウトしてから1週間が経った。

 両親には、カトリシアと仲良くなったという旨のみを報告した。そのおかげか、兄様を必ず伴うという条件付きだが、外出する事を許可されるようになった。


 ということで今日はついに、王都(ディアムール)へ行ってみようと思います!(配信者風)
 まぁ勿論、御忍びコーデでである。あんまり意識したことなかったけど、私って一応リーノの付く公爵令嬢なんだよね。
 だからバレたら間違いなく誘拐されるだろうし(そして組織がお父様達によって壊滅する)、兄様曰く、私の周囲に余計な虫が飛び回る事態が起きかねないらしい。

 虫か…それは嫌だなぁー……なんて言うと思ったか?自分の容姿が兄様達よりかは多少劣っているとはいえ、美幼女だという自覚はあるし、そもそもこの世界、女性の数が比較的少ない。
 その常識から考えると“余計な虫”=“求婚者”という式が簡単に成立する。

 まぁどっちにしても面倒だから、嫌なのは変わらない。



「そういえば、リアルで“虫”って言ってる人初めて見た…。それが兄様という何とも言えない感じがすごい…」

「アンジュ?何か言った?」

「ううん、兄様。気にしないで、ただの独り言です」

 そう?と、僅かに首を傾げながら、兄様は天使の如く実に美しい微笑みを浮かべた。
 アッ、尊い…。

 1回死んでも(なお)、しぶとく新しい生に張り付いてきた自分の中オタクが軽く尊死するのを全く悟らせないよう、今世で上手くなった微笑みを浮かべて隠した。


 現在所在地は、公爵家の馬車(御忍び用)内。念願であるディアムールへと向かっている途中だ。街には一時的に馬車を駐められるスペースが存在するらしく、そこへ着くまでの約40分間は馬車で揺られ続ける。
 
 普段ならば40分ぐらい乗りっぱなしでも苦じゃないけど、今は1秒でも早く着いて欲しい。


「今日のアンジュも可愛いよ。いつものドレスも文句なしに可愛いけど、ズボン姿も新鮮で良いね。とても似合ってる」 

 見ているこちらが砂糖吐きたくなるほど激甘な笑みを浮かべ、これまた甘い口説き文句モドキをサラッと口にする兄様。

 原因はこれだ。

 本当、言われるこっちの身にもなって欲しい。この手の甘さに慣れていない私は羞恥で軽く死にそうだ。兄様さ、正真正銘の6歳児だよね?実は兄様も前世あったりしない???


「あ、ありがとうございます…。そういう本日のザライド兄様もかわi…カッコいいです」

 危ない危ない、かわいいって言いかけた。普段ならこんなミスをほぼしないのに……うん、これも兄様のせいだな(←おい)。

 向かい側が空いているにも関わらず、何故か隣に座った兄様の顔をそっと窺う。…うん、気付かれなかったようだ。


「ザライド様にお嬢様、もうすぐでディアムールですよ」

 御者さんが前の方から声をあげた。誰が乗っているか判らないよう閉じていた、手触りの良いクリーム色のカーテンを少しだけ開けた。そして外を目にした途端、その光景に思わず歓声をあげてしまった。

「わあ~!!」

 建物1つ1つは程よくカラフルで、とても綺麗だった。例えるなら、ポルトガルのとある街のような感じ。
 街には様々な人々(主に男性)が溢れてすごく賑やかだ。その誰もが笑顔を浮かべており、明るい雰囲気で満ちていた。

 そうして、そんな街の1番奥にあるのは大きな荘厳華麗な城。ここには、このディアマンテ王国の王族が住んでいる。その背後には越えるのが困難な、巨大な山が(そび)えていた。
 
 城が奥に位置するのは、相手が攻めにくくするためなのだとこの前、国史の授業で教わった。


 
「(これが王都、ディアムール)」


 先程までの羞恥を忘れ、早くあの中に混ざりたいと、期待と興奮で頭がいっぱいになった。



 
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