バカ恋ばなし
バレンタインデーを4日後に控えた2月10日日曜日の昼下がり、私はお財布とレシ

ピのメモ書きを手提げ袋に入れて近所のスーパーマーケットまで自転車のペダルを

全速力で漕いだ。スーパーに到着すると、レシピを見ながら材料のある売り場へ突

進していった。フロア内をドカドカ歩きながら材料を探し回り、買い物かごに入れ

ていった。

「バター、小麦粉、板チョコ、卵、ラム酒、ドライフルーツと……これでよし!」

全ての材料が揃ったのを確認し、レジへ一直線に向かって会計を済ませ、すぐにス

ーパーの出入り口めがけて突進していった。そして、自転車にまたがり全速力でペ

ダルを漕いだ。不思議と力が漲っていて、それほど疲れを感じなかった。自宅に戻

ると、早速母の花柄エプロンを着けながら台所へ向かい、テーブルの上に材料を広

げてお菓子作りを開始した。雑誌のレシピが掲載しているページを開けて作り方や

分量を一つ一つ睨みつけるように見ながら各材料の分量を確認して量り、ボールに

小麦粉とバターを入れて捏ね始めた。

「美味しい物を作るぞ!」

ひと捏ね入魂!の勢いで必死にバターを捏ね回した。おかげで私の両手はバターと

小麦粉、卵がベチャベチャにくっつきまくり、テーブルやエプロンに小麦粉が飛び

散っていた。

パイ生地を作って冷蔵庫で冷やしてねかせ、その後板チョコを刻んでいき「美味し

くな~れ!美味しくな~れ!」と心の中で呪文を唱えながらドライフルーツとラム

酒を合わせてフィリングを作った。ラム酒のいい香りが台所中に漂ってきた。パイ

生地を麺棒で伸ばしてハート型にくり抜いていきチョコレートフィリングをのせて

パイ生地で包んでいった。全集中でパイ生地を包んでいるところを母親が見て、一

緒に包むのを手伝ってくれた。パイ生地を包みながら母が呆れた顔でポツンと呟い

た。

「そんだけ集中できるんだから、その集中力を受験勉強に活かしていれば大学の一

つや二つ入れたのにね。」

焼きあがったチョコレートパイは、若干焦げ気味のものもあれば、ややキツネ色の

ものもあった。パイ生地の隙間からチョコレートフィリングがはみ出していたのも

あった。雑誌に載っているようなきれいなハート型とは程遠く、所々形が歪んでい

た。手先が器用ではないから包み方が上手くできていなかった部分もある。12個程

作ったパイの中で比較的キレイなハート型のものを5個選び、箱に詰めた。ピンクの

ギンガムチェックの袋に入れて赤いリボンで結びラッピングをした。

「よし!これで準備完了!譲二君の口に合えばいいけどな……。」

そもそも譲二君は甘いものが好きなんだろうか。チョコレートを好んで食べる人な

のだろうか。
< 24 / 124 >

この作品をシェア

pagetop