バカ恋ばなし
バレンタインデーの2日前にあたる2月12日の火曜日、私は朝から緊張していた。こ

の時期は冬の寒さで朝ベッドからなかなか起きられないのに、その日の朝は緊張し

ていたからかシャキッと目覚めて珍しくスッとベッドから起きられた。登校してか

ら授業中も私はずっと緊張が続いており、ほとんど無口だった。帰宅後、更に緊張

は強くなった。私は階段を駆け上り2階の自室に入ってから深呼吸をして気持ちを落

ち着かせた。比呂ちゃんのお友達から教えてもらった譲二君宅の電話番号が書いて

あるメモを握りしめながら1階に降りて電話機の前に立った。左手で受話器をグッと

握りしめ、メモを見ながら震える指でプッシュホンのボタンを慎重に押して譲二君

宅へ電話をかけた。

プルルルル………何度か呼び出し音が鳴った。それに共鳴するかのように私の胸も

ドキドキと高鳴った。

「もしもし春田です。」

幼い男の子の声だったのでちょっと拍子抜けした。譲二君には小学生くらいの弟か

いるのか?

「あ、あの、も、もしもし、ま、丸田と申しますが、譲二君はいらっしゃいます

か?」

「はい」

ドカッと受話器を置く音がしてから譲二君を呼びに行ったのか奥でトタトタと歩く

音がして「兄ちゃーん電話―!」と呼ぶ声が微かに聞こえた。数秒間の静寂の後、

「はい。」

受話器から譲二君のほわっとした声が聞こえた。そのとたん緊張が最高潮になり、

ドキドキと鼓動が早くなるのを感じた。私は震えた声で話始めた。

「も、もしもし、は、春田 譲二君ですか?」

「はい。」

「あの、まっ、丸田です。い、いつも朝で、電車で一緒の車両に乗っている者で

す。あと、きょっ、去年文化祭に遊びに行って、い、一緒に写真を撮った者です。

私のこと……お、覚えてる?。」

「ああ……覚えてる……。」

「よかったあー……。あ、あの、私のと、友達の友達が春田さんと同じ学校に通っ

ていてし、しかも同じクラスで、それで電話番号を教えてもらったの!あ、あの、

きゅっ、急に電話をしてごめんなさいっ!」

私は慌てて電話番号を教えてもらった経緯を説明した。

「ああ……はい。」

譲二君は別に気にしていないという感じで返事をした。

「あ、あのー、2月17日の日曜日ですが、ご、午後1時半頃お、お、お時間空いて

ますか?」

バレンタインデーである2月14日は木曜日の平日で、夕方の遅い時間帯だと申し訳

ないので、3日後の2月17日日曜日午後に会うことに決めていた。

「17日の1時半……うん、まあ空いているけど……。」

「渡したいものがあるのでちょっ、ちょっとでもあ、あ、会いたいなあーっと思っ

て……い、いいですか?」

「ああ……いいよ……。」

「よかったあー……では、2月17日曜日の1時半にK駅前で待ち合わせしません

か?」

「いいよ……。」

「あ、ありがとう!では17日の1時半、K駅前で待ってます!」

「はい……。」

ガチャ。受話器を置いた後、私はガッツポーズをした。

「よっしゃー!バレンタインのアポがとれた。これで彼と二人きりで会える!!」

私は嬉しさと、緊張から解放され肩の力が抜けるのを感じた。これで譲二君と会う

約束がとれた!順調だ!私は、この片想いの恋が前進して良い方向にむかうのでは

ないかと更に確信を深めていった。

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