バカ恋ばなし
時計は12:30を過ぎていた。約束の時間まで1時間前だが、家にいても落ち着か

ないし、待ち合わせに遅れたら譲二君への印象が悪くなることを恐れ、早めに待ち

合わせ場所に向かうことにした。私は、自転車に跨り、胸の鼓動が高鳴るのを感じ

ながら勢いよくペダルを漕いだ。目指すはK駅!譲二君との待ち合わせ場所!ペダル

を漕ぐリズムが早くなってくる。胸の鼓動とペダルを漕ぐリズムが共鳴するような

感じだった。自転車で前進する度に冷たい風が頬を刺していくが、返って心地よい

刺激となった。

K駅前の駐輪場に自転車を停めて、駅入り口に向かった。渾身の手作りチョコレート

パイの入ったショルダーバックを抱えながら神妙な面持ちで駅入り口に立った。緊

張はずっと最高潮のままだ。約束の時間までまだ50分もあった。この間、胸が緊

張で押しつぶされそうな感じだった。ドキドキとはっきり鼓動が鳴っているのを感

じていた。緊張と冬の寒さもあり、身体は小刻みに震えていた。

駅入り口で待つこと40分。約束の時間の10分前、つまり13:20頃シルバーのロー

ドバイクに乗った譲二君が駅前の道を通過して駐輪場に向かっているのが見えた。

約束の時間よりも早く来るとは……早めに到着しといてよかった!

譲二君はロードバイクを駐輪場に停めて私のいる方向へゆっくりと歩いてきた。表

情は少し恥ずかしそうな感じが見られた。譲二君は赤いダウンジャケットにスリム

なブルーデニムといった服装で、白いバスケットシューズを履いていた。スリムな

デニムが長い脚とスタイルの良さを際立たせていた。

(やっぱり譲二君は何を着てもかっこいいなあ……。)

譲二君の爽やかな出で立ちを見て私の緊張はもう最最高潮になり、口から心臓が出

てきそうな感じがした。あまりにも凄い緊張と、寒さもあって、私の身体は更に震

えてきた。

(譲二君が一歩一歩私のところに近づいてくる……来た!目の前に来た!)

「こんにちは……。」

私は勇気を振り絞り、顔を上げて譲二君に挨拶をした。唇は震えており、それと一

緒に胸の鼓動も小刻みなリズムが続き、はっきりと耳元までトクトクと聞こえてい

た。

「ああ……こんにちは……。」

譲二君もはにかみながら挨拶を返してくれた。

「きょ今日は、来てくれてありがとう。ち、近くでお、お茶でも一緒にどうかなあ

と思って。そ、それに渡したいものもあるし。い、いい?」

私は若干上目使いで譲二君に聞いた。唇が震えているため、言葉がスムーズに出て

こない。

「ああ……いいよ。」

譲二君は笑顔で了承してくれた。ボーっとした感じの話し方は文化祭のときと同じ

だ。

「ど、どこか行きたいところはある?」

「別に……どこでもいいよおー。」

譲二君は微笑みながらボーっとした感じのしゃべりで答えた。

「じゃ、じゃあ、そ、そこのフラワーハウスでもいいかな?」

「うん、いいよおー。」

私たちはK駅前の道路を挟んだところにあるフラワーハウスという小さな喫茶店へ向

かった。喫茶店までの距離が近いというのもあり、店に向かっている間私たちは無

言だった。私は、譲二君よりも約三歩後ろの位置をキープしながら、俯いたままシ

ャカシャカとやや小刻みな足取りで歩いていた。譲二君はダウンジャケットのポケ

ットに両手を突っ込んで、長い脚を大幅に広げながらスタスタと歩いており、私の

方には見向きもせず、真っ直ぐ前方を見て歩いていた。


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