バカ恋ばなし
国家試験に合格した21歳の4月、私はT*大学付属Ⅾ病院へ正看護師として就職することになった。このⅮ病院は東京都内にあるT*大学病院の分院である。なぜこのP町というド田舎に分院を建てたのかわからない。本当は東京都内への就職に憧れていたが、都会の生活や職場の人間関係が厳しそうで、メンタルが弱い私はついていけないと判断し、これまた自宅から通勤できるⅮ病院へ就職した。卒業した看護学校はⅮ病院と繋がっていたので、就職時の面接はいたって簡単であった。
面接は集団で実施し、5人ずつ病院内の面談室に呼ばれ、病院長、副院長、看護部長、教育師長の前に並んで座った。副院長が学生一人ずつにそれぞれ質問をしていった。
「え~っと……丸田 愛子さん。」
「はい。」
「君は……趣味の欄に『料理』と書いてあるけど、よく料理をするのかね?」
「は、はい。一応……。」
「何が得意なんだ?」
「え~っと……野菜炒めです。」
「そうか~。私もよく野菜炒めを作るんだよ~肉野菜炒めね。野菜炒めを上手く作るコツは何かあるか?」
副院長がニコニコと穏やかな顔で私にこう質問したのだ。就職とは程遠い、意外な質問に私はかなり戸惑った。数秒考えた後、こう返答した。
「……よく炒めることです。」
「そうか……ありがとう。」
私の就職面接は終了した。就職動機については履歴書に記載していたので、質問はなかった。(記載
していない者だけ、後で質問されていた。)後日、Ⅾ病院就職内定通知が届き、私の就職が決まった。
(就職面接ってこんなものなのか。これで就職できるなんて、私はツイている!)
私は自分が簡単に病院就職できたことにあっけにとられたが素直に嬉しかった。この病院に就職してきっとステキなことが起こるかもしれない!なぜかそんな期待が湧いてきてワクワクしていた。
出勤初日、憧れのワンピース白衣に袖を通し、ナースキャップを装着した私は、心弾ませながらニコニコ顔で就業式の会場である病院講堂へ向かった。
「あたし、看護師になったんだ……。」
白衣を身にまとってこれから看護師として勤務することが、カッコよく思えてとても嬉しかった。
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