バカ恋ばなし
22歳になった年の4月1日、私は遂にあの皆から恐れられていた地獄の産婦人科病棟配属となった。配属1週間前から私の心は既に憂鬱だった。配属前日は憂鬱なあまり、顔が歪んで暗い雰囲気を醸し出していた。そんな私を先輩看護師達が見るに見かねて声をかけてきた。
「大丈夫だよ、丸ちゃん。とにかく仕事を早く覚えてできるようになれば誰も文句は言わないよ。ホントに大丈夫だから。異動してもこっちに遊びに来ていいからね。」
「はあ……ありがとうございます……。」
先輩達は心配そうな顔で私を励ましてくれた。その励ましはとてもありがたかったが、私の心は晴れなかった。
(とにかく仕事を覚えることか……。産婦人科なんて難しそうだし、あんな最悪な環境で耐えきれるかなあ……。でもやるしかないかな……。)
憂鬱な心のまま仕事を終え帰宅し、これから先のことを考えると不安になり夜はまともに眠れずそのまま朝を迎えた。
配属当日の朝は全然スッキリ目覚めず、洗面所の鏡に映る自分の顔は青白く浮腫んでブスくれており、とても人相が悪かった。顔を洗ってもスッキリせず、重たい瞼でブスくれた顔のまま車に乗り込み出勤した。
「遂に地獄の始まりが来たか……。」
病院に到着すると、私はカサカサで乾燥した口で独り言を呟きながら運転していた車を病院職員用駐車場に停めて歩き出した。更衣室で白衣に着替え、集合場所である病院講堂に向かって廊下を歩いているとき、あまりの憂鬱さで歩く速度がかなり遅くなっていた。一歩一歩の歩幅がいつもの半分くらいの小刻みになっていた。そして後ろから足をゴムで引っ張られているような感じがするくらい足取りが重かった。人は、本当に嫌だと思うと、足が重くなるもんだなあとこのとき私はしみじみと実感した。集合時間の8:00より10分前に病院講堂に到着すると、大勢の同期である新人看護師達が皆緊張した面持ちで待機していた。今から正式な病棟配属となる私たち新人看護師達は、病院講堂へ一旦集合し、そこから配属先の病棟師長に連れられて病棟に配属されるのだ。
(あ~あ、嫌だなあ~)
私は絶望感から何度もハァーっと両肩が上下に揺れるほどの大きなため息を吐いていた。
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