バカ恋ばなし
このⅮ病院は、病棟が東、西、南とあり、産婦人科病棟は西病棟の4階にあった。私たちは前田師長の後について、西病棟4階にある産婦人科病棟に向かった。緊張からか廊下を一歩一歩進む足取りは鉛のように重い。
(あ~あ……今正に地獄へ向かっているんだな……。)
4階に昇るエレベーターの中で私は心の中で呟いた。
エレベーターの扉が開くと、あの恐怖の産婦人科病棟のナースステーションが見えてきた。私たちはナースステーションの前にある倉庫に隣接している休憩室の前に案内された。
「ここが私たちの休憩室だから。中に各自のロッカーがあるからそこに荷物を置いてね。」
「はい。」
私たちは恐る恐る「失礼しまーす。」と休憩室の中に入っていった。休憩室は6畳半ほどの広さで床にはグレーの絨毯が引き詰められており、真ん中に約1.5mくらいの正方形の白いテーブルが置いてあった。中では米倉主任とベテラン看護師3名程がテーブルを囲んでドカッと座っており、神妙な顔をしながら窓際の壁に置かれたテレビで朝の連続ドラマをジーっと観ていた。私たちはその中をそろりと入って壁際にあるロッカーに荷物を入れた。荷物を入れ終わったころ、ベテラン助産師で臨床指導担当の北島さんが「おはようございま~す。」と栄養ドリンクの瓶を片手に持ちながら気怠そうな表情で入ってきた。
「おはよ~。あんた~また二日酔い?」
米倉主任が北島さんをチラ見しながら言ってきた。
「いやぁ~旦那とまた喧嘩しちゃってさぁ~。飲まなきゃやってらんないよ~。」
北島さんは怠そうな感じで返事をした。米倉主任は「フッ」と鼻で笑いながらテレビに視線を移した。
(うわぁ~何だか怖そう……。)
私は二人のやり取りを見て、心の奥から不安がグぅーっと増してくるのを感じた。
「もうすぐ朝礼が始まるからナースステーションの中に入って待ってて。」
前田師長の指示で私たちは「失礼しま~す。」と恐る恐るとナースステーションに入り、隅の方で固まってじっと立っていた。
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