バカ恋ばなし
ナースステーションに入ると夜勤担当の先輩看護師田島 早紀が一人忙しく夜勤申し送りの準備をしていた。田島先輩は私たち3人を横目でチラッと睨みつけ、さも何もないようにそのまま作業を続けていた。
(いたよ田島……やっぱり感じ悪いわ~これから先、あいつと一緒の職場だなんて最悪だわ……。)
田島 早紀は私や広瀬と同じ看護学校出身で一学年上の先輩であり、自分よりも後輩に対してはすごく意地悪であった。身長は私と同じ155cmくらいで、腰まである真っ黒な直毛ロングヘアを一つに束ねていた。切れ長で少し吊り上がった眼は性格の悪そうな感じを醸し出していた。私は産婦人科病棟実習のときに田島先輩から意地悪をされたことを忘れてはいない。
「ねえ学生さん、回診車からイソジン(消毒液)取ってきて。」
田島先輩に頼まれたので、急いで病棟中の廊下を駆け回って回診車を探したが見当たらなかった。
「回診車って、どこにあるんだよ……。」
私は焦った顔で廊下をウロウロと小走りしていた。
「回診車はここにあるでしょ!どこ探しているんだよ!」
と、田島先輩は大声で私のことを怒鳴りつけながら太い眉毛を釣り上げた仏頂面で分娩室から回診車を出してきた。そんなことがあり、私は田島先輩に対して恐怖と嫌悪感を抱いていた。そんな田島は自分より立場が上である師長、主任、ベテラン助産師や中堅看護師たちには腰が超低かった。彼女たちから頼まれれば「はい、わかりました!」ととびきりの笑顔で率先してキビキビと動いていた。私たち後輩とは態度が真逆で、それはそれは恐ろしかった。
私だけでなく、同級生のほぼ半数以上が実習先で田島先輩にイジメられていたので、皆彼女を嫌っていた。
「クソ田島め!!あいつ超ムカつく!!とっとと辞めればいいのに!!」
産婦人科実習を終える度に同級生たちは口々に田島先輩の文句を言った。ここまで嫌われている人間は本当に珍しいくらいだ。産婦人
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