バカ恋ばなし
もしかしてそれは、私の胸の鼓動なのかもしれない。憧れの譲二君のすぐ傍にいら

れる喜びと緊張で、私はずっと俯いたままでいた。譲二君の顔は恥ずかしくて見れ

ない。私は電車が走行している間、緊張と嬉しさで顔がニヤけるのを抑えていた。

俯いているので譲二君の表情はわからない。多分譲二君は無表情で、このことにつ

いては何とも思っていないだろう。でも私は、車両へ乗り込んだときに彼が私の方

を振り向いて向かい合わせになったことについて、「きっと譲二君も私のこと

を……」と、とんでもない勘違いと思い込み、そしてあわよくば両想いになるので

はと密かに期待をするようになっていった。たかが、車両内で偶然向かい合わせに

居合わせだけなのに。

「いやー最高だったよ!プリンス様と向かい合わせ!それもすぐ目の前だから最高

だよ!やったね!」

T駅を出て登校路である商店街を歩きながら、朝のワンダフルタイムについて3人で

振り返りながら語り合っていた。

「丸ちゃん、俯いていたけど顔はニヤニヤしていたよ。」

親友の佳子が半ば冷やかしつつも、その光景を楽しんでいるような感じで言ってき

た。 佳子はしっかり者で周囲を冷静に見れる、私たち3人の中では一番お姉さん的

な存在だ。身長も163cmと私たち3人の中で一番長身というのもあり、お姉さん

キャラを尚際立たせていた。佳子も私と同じく肩から10cm下までのロングヘア

で、いつもお団子やポニーテール、編み込みと自分できれいに髪を結ってきてお

り、手先が不器用な私としてはとても羨ましかった。そして下がり気味の目尻で時

折見せる優しい微笑みは、私達に安心感を与えてくれた。

私は、顔を下向きにしてニヤついた間抜け面を隠していたつもりだったが、佳子達

にはバレていた。
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