バカ恋ばなし
「お~い!こっちこっち!」
沼尻先生がにっこり笑顔でピーンと挙げた右腕を左右に振った。顔は既に真っ赤であった。
隣で石家先生もニッコリ笑顔でこちらを見ていた。
(やっぱ石家先生の笑顔は爽やかでステキだわぁ~!)
「遅れてすみませ~ん!」
田島先輩が鼻にかかった裏声で言いながら先生たちのいる座敷席へ向かった。私は田島先輩の背後にくっついて進んでいった。若干俯いた顔の口元は自然と少しニヤついているのを感じた。
(石家先生と一緒に呑める!あっ、でも車運転だから呑めないか!いやめっちゃ近くで一緒にいられるだけで嬉しい!)
私はニヤついた顔を悟られないよう更に顔を俯き気味にした。座敷席についた田島先輩と私は、先生達と対面で腰を下ろした。偶然なのか私は石家先生と対面で座ることができた。石家先生は、緑色で某スポーツメーカーのマークが入ったトレーナーにチノパンツといた格好であり、沼尻先生と同じく既に顔を真っ赤にしていたがクシャっとした笑顔は親しみやすさを滲ませていた。沼尻先生は白いシャツの上にグレーのニットカーディガンを羽織り、下はグレーのオヤジスラックスを履いていた。いかにもオジサンスタイルだ。
「遅かったなぁ~。道が混んでいたのか?」
沼尻先生が真っ赤な顔をニヤつかせながら聞いてきた。そのとたん煙草と酒の臭いが漂ってきた。
「そうなんですよぉ~。結構混んでたよね?」
田島先輩が病棟で良く見せる猫被った笑顔で返事をしながら私の方へクルっと向いて同意を求めてきた。
「あっ、はい……。」
私は慌てて返事をした。田島先輩と私は店員さんを呼び、飲み物を注文した。数分後店員さんが飲み物を運んできた。田島先輩はビール、私はウーロン茶の入ったグラスを取った。
「なんだ~酒呑まないの~?」
沼尻先生が真顔で私に聞いてきた。
「はい、車運転してきたので。」
「そうか。それじゃあ、改めてカンパ~イ!お疲れ!」
沼尻先生はビールが半分くらい入ったコップを右手に持って乾杯の音頭をとった。私たち4人は乾杯し、それぞれコップの中の飲み物を飲み干した。
「石家はこうして看護師達と飲むのは初めてか?」
「いや、歓迎会と病棟旅行で一緒に飲みましたよ。」
「そうか~旅行のとき一緒だったよな。田島は来なかったっけ?」
「はい~ちょっと(彼氏と)用事がありまして~。」
「そうかそうか。」
「旅行では先生達かなり飲んで酔っ払ったんでしょ?特に沼尻先生は主任とイイ感じになったって聞いたんですけど。」
田島は駆け付け一杯のビールを一気に飲んで気分を良くしたのか、赤らんだ顔にいたずらっぽい表情を浮かべながら沼尻先生に聞いてきた。
「何言ってんだよ!主任とイイ感じになるわけねぇだろ!あんな赤鬼ババアとなんか!」
「えぇ~!だって主任とかなり濃厚なキスシーンがあったんでしょ~?」
「あぁ~あれは二次会の王様ゲームで仕方なくだよ~。ていうか俺と主任はそんなに濃厚なキスしていたか?」
(えっ?)
沼尻先生と田島先輩の会話を、目の前でウーロン茶をちびちびと飲みながら聞いていた私は沼尻先生のこの発言を聞いて純粋に驚いた。
(お前今更何言ってんだ?かなり酷かったのを気付いていないの?ヤバくねぇか?)
あんなに酷いディープキッスをかましていたのにわからなかったのか。きっとかなり酔っていたのであまり覚えていないのか、感覚がわからなかったのか。
「先生、凄かったですよ~。あの主任の目がトロンとしていましたから。いや~イイものを見せてもらいましたよ~先生。」
石家先生は真っ赤な顔をクシャっとさせて笑いながら言ってきた。
(あの場面はとてもじゃないけど「イイもの」とは言えないけど……石家先生にはそう見えたのかな……)
私はそのとき、石家先生の感覚を少し疑った。
しばらく病棟旅行での宴会の話で盛り上がり、その後は沼尻先生の喜屋武教授と前田師長いじりが始まった。
「あの喜屋武のクソジジイがよぉ~こっちに急患押し付けやがって。自分は研究と言って出ていっちゃうしよ~。畜生め!」
「あの前田のババアめ!肝心なときにいないから困ったもんだよなぁ~!あ、そういえば北島が言ってたけど、師長って愛人がいるんだろ?」
(えっ?!)
私は鶏のから揚げを口の中に入れたまま目を丸くして沼尻先生を見た。
「そうみたいですよ~。ここだけの話ですけど、相手は高校時代の同級生らしく、同窓会で再会してから付き合いが始まったそうですよ。F(県)とQ(県)をお互い行き来しているらしいです。先週急に『用事ができたから』と言って自分で3連休取っていて、噂によるとF(県)に行って密会していたそうですよ。あたしたちにはそんなに有休をくれないくせに、自分で勝手に休みを入れていて、ズルいっすよねぇ~!これだからあの師長は皆に嫌われてるんすよ~。」
と言って田島先輩は真っ赤な顔をしかめながらコップに残ったビールを飲み干した。
(うわぁ~なんか凄いな……)
私は鶏のから揚げをモシャモシャ食べながら、人は表では想像つかないことを裏でしているんだなぁとしみじみ思った。そして前田師長が同じ歳の同級生愛人と逢瀬を楽しんでいる様子をちょっと想像してしまい、気持ち悪くなった。そういえば、1週間前急に前田師長が「急用ができた。」と言って有休をとっていたのを思い出した。
(そういうことだったのか……)
沼尻先生がにっこり笑顔でピーンと挙げた右腕を左右に振った。顔は既に真っ赤であった。
隣で石家先生もニッコリ笑顔でこちらを見ていた。
(やっぱ石家先生の笑顔は爽やかでステキだわぁ~!)
「遅れてすみませ~ん!」
田島先輩が鼻にかかった裏声で言いながら先生たちのいる座敷席へ向かった。私は田島先輩の背後にくっついて進んでいった。若干俯いた顔の口元は自然と少しニヤついているのを感じた。
(石家先生と一緒に呑める!あっ、でも車運転だから呑めないか!いやめっちゃ近くで一緒にいられるだけで嬉しい!)
私はニヤついた顔を悟られないよう更に顔を俯き気味にした。座敷席についた田島先輩と私は、先生達と対面で腰を下ろした。偶然なのか私は石家先生と対面で座ることができた。石家先生は、緑色で某スポーツメーカーのマークが入ったトレーナーにチノパンツといた格好であり、沼尻先生と同じく既に顔を真っ赤にしていたがクシャっとした笑顔は親しみやすさを滲ませていた。沼尻先生は白いシャツの上にグレーのニットカーディガンを羽織り、下はグレーのオヤジスラックスを履いていた。いかにもオジサンスタイルだ。
「遅かったなぁ~。道が混んでいたのか?」
沼尻先生が真っ赤な顔をニヤつかせながら聞いてきた。そのとたん煙草と酒の臭いが漂ってきた。
「そうなんですよぉ~。結構混んでたよね?」
田島先輩が病棟で良く見せる猫被った笑顔で返事をしながら私の方へクルっと向いて同意を求めてきた。
「あっ、はい……。」
私は慌てて返事をした。田島先輩と私は店員さんを呼び、飲み物を注文した。数分後店員さんが飲み物を運んできた。田島先輩はビール、私はウーロン茶の入ったグラスを取った。
「なんだ~酒呑まないの~?」
沼尻先生が真顔で私に聞いてきた。
「はい、車運転してきたので。」
「そうか。それじゃあ、改めてカンパ~イ!お疲れ!」
沼尻先生はビールが半分くらい入ったコップを右手に持って乾杯の音頭をとった。私たち4人は乾杯し、それぞれコップの中の飲み物を飲み干した。
「石家はこうして看護師達と飲むのは初めてか?」
「いや、歓迎会と病棟旅行で一緒に飲みましたよ。」
「そうか~旅行のとき一緒だったよな。田島は来なかったっけ?」
「はい~ちょっと(彼氏と)用事がありまして~。」
「そうかそうか。」
「旅行では先生達かなり飲んで酔っ払ったんでしょ?特に沼尻先生は主任とイイ感じになったって聞いたんですけど。」
田島は駆け付け一杯のビールを一気に飲んで気分を良くしたのか、赤らんだ顔にいたずらっぽい表情を浮かべながら沼尻先生に聞いてきた。
「何言ってんだよ!主任とイイ感じになるわけねぇだろ!あんな赤鬼ババアとなんか!」
「えぇ~!だって主任とかなり濃厚なキスシーンがあったんでしょ~?」
「あぁ~あれは二次会の王様ゲームで仕方なくだよ~。ていうか俺と主任はそんなに濃厚なキスしていたか?」
(えっ?)
沼尻先生と田島先輩の会話を、目の前でウーロン茶をちびちびと飲みながら聞いていた私は沼尻先生のこの発言を聞いて純粋に驚いた。
(お前今更何言ってんだ?かなり酷かったのを気付いていないの?ヤバくねぇか?)
あんなに酷いディープキッスをかましていたのにわからなかったのか。きっとかなり酔っていたのであまり覚えていないのか、感覚がわからなかったのか。
「先生、凄かったですよ~。あの主任の目がトロンとしていましたから。いや~イイものを見せてもらいましたよ~先生。」
石家先生は真っ赤な顔をクシャっとさせて笑いながら言ってきた。
(あの場面はとてもじゃないけど「イイもの」とは言えないけど……石家先生にはそう見えたのかな……)
私はそのとき、石家先生の感覚を少し疑った。
しばらく病棟旅行での宴会の話で盛り上がり、その後は沼尻先生の喜屋武教授と前田師長いじりが始まった。
「あの喜屋武のクソジジイがよぉ~こっちに急患押し付けやがって。自分は研究と言って出ていっちゃうしよ~。畜生め!」
「あの前田のババアめ!肝心なときにいないから困ったもんだよなぁ~!あ、そういえば北島が言ってたけど、師長って愛人がいるんだろ?」
(えっ?!)
私は鶏のから揚げを口の中に入れたまま目を丸くして沼尻先生を見た。
「そうみたいですよ~。ここだけの話ですけど、相手は高校時代の同級生らしく、同窓会で再会してから付き合いが始まったそうですよ。F(県)とQ(県)をお互い行き来しているらしいです。先週急に『用事ができたから』と言って自分で3連休取っていて、噂によるとF(県)に行って密会していたそうですよ。あたしたちにはそんなに有休をくれないくせに、自分で勝手に休みを入れていて、ズルいっすよねぇ~!これだからあの師長は皆に嫌われてるんすよ~。」
と言って田島先輩は真っ赤な顔をしかめながらコップに残ったビールを飲み干した。
(うわぁ~なんか凄いな……)
私は鶏のから揚げをモシャモシャ食べながら、人は表では想像つかないことを裏でしているんだなぁとしみじみ思った。そして前田師長が同じ歳の同級生愛人と逢瀬を楽しんでいる様子をちょっと想像してしまい、気持ち悪くなった。そういえば、1週間前急に前田師長が「急用ができた。」と言って有休をとっていたのを思い出した。
(そういうことだったのか……)