snowscape~彼と彼女の事情~
「いや、あの、二人が先行ってるから旬さんを呼んできてって…」


腹の底から出したつもりの声はカッコ悪く裏返り、ありえない小ささ。


「わかった」


聞こえずらかったのか、旬君の返事もとても小さくか細い。


そして、吸っていたタバコを丁寧に押し付けた旬君は


「よし、行くか」


と言い、景品の白いクマのぬいぐるみをコートのポケットに入れ、ゆっくりと歩き始めた。


「あ、はい」


どうしても彼に近寄れないこの微妙な距離感。


それは、互いに心を開ききれていない事を証明してるようなものだった。


“親密さ0”


この表現が一番あっているかもしれない。


「どこの部屋?」


「あ、17番の部屋です」


旬君の足が止まり、振り返えられれば、あたしの足も自然と止まってしまう。


彼の瞳にあたしが映っているのは現実なのに、足がすくんじゃう…


「なんか、俺怖いかな?」


「えっ?あ、いや、そんなことないです」



不自然なものの言い回しで返事してしまったあたし。


感じ悪いし、第一印象は最悪だろう…


それっきり、旬君はその事について深く追求もせず、前を向いてひたすら歩きだした。


あたしは、こんな自分にがっかりし、溜め息をもらしかけたが、ますます場の雰囲気を壊したくなくて息を飲み込んだ。


亜紀達が待っている17番の部屋の前に着き、旬君がドアをなんなく開けると


「おい、旬っ!!おせ~よ」


相変わらずチャラい隼人君は、ニヤケ顔で旬君に手を振り、いやらしく鼻の下を伸ばしていた。


短い時間でも、亜紀と二人きりでいれたのが嬉しかったんだろう。
< 15 / 20 >

この作品をシェア

pagetop