snowscape~彼と彼女の事情~
旬君がポケットに手を入れ、タバコと一緒に白クマのぬいぐるみをテーブルの上に置くと、隼人君はそのクマをすかさず手にとり、笑い始めた。


「つーか、なんだコレ。かなりぶさいくじゃねぇ?」


「うっせぇ~よ、狙ったわけじゃないし」


「亜紀ちゃん、見てみ?」


小さな白クマの両腕を指でつまみ、亜紀の目の前でお辞儀させ、笑いを誘う。


「かわいくな~い」


亜紀は指先で小さいクマの額を小突き、二人はタイミングを合わせたかのように同時に笑い転げている。


笑い過ぎて涙目になった隼人君は、手の甲で涙を拭いつつ


「これ、旬持って帰るの?彼女にみやげ?」


とバカにした口調で旬君を煽り、ひぃひぃ腹を抱え笑い続けた。


「うっせ~よ、いらね~って言われるつーの!!」


旬君はそう言うと、どことなくムッとした表情を浮かべ、隼人君から白クマを奪い、自分の目の前へと戻した。


誰だってバカにされたら腹がたつ。


けど、そんなムキになる旬君の仕草がやたら可愛く見えて仕方ない。


…完璧、旬君にやられたわ…


そう思いながらも、タイミングを失い、入りきれない三人の会話に聞き入るあたしがいた。


あまり旬君ばかりを見て気持ち悪がられてもなんだと、旬君から亜紀に視線を変え、横を向きかけた時


「友里、これやるよ」


微妙な距離にいる旬君が、さりげなく膝の上に白クマのぬいぐるみを乗せてきた。


小さな小さな、本当に可愛くない白クマのぬいぐるみ。


目と鼻のバランスが微妙で、違う意味、愛嬌のある表情。


あたしは彼の突然の行動にも驚いたけど、呼びつけされた事の方に俄然驚きを隠せず


「えっ?友里って……」


再確認するかのようについ口に出し、旬君をジッと見つめてしまった。


変な沈黙が数秒間流れた後


「……って、いらね~か」


旬君は、白クマに手をかけ、自分の元へ戻そうとしている。


旬君がくれる白クマさん


旬君がくれる白クマさん!


欲しい…欲しい!
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