snowscape~彼と彼女の事情~
「えっ!!いるっ!!!」


あたしは恥を捨て、とっさに旬君の手に絡みつき、凄い勢いで白クマを奪い取っていた。


鏡を通して自分で自分の顔を見たら、きっとあり得ない形相だったと思う。


「あっ、そう。サンキュ♪」


そんなあたしを見ても旬君は驚くどころか、軽い口調で返事し、白クマのぬいぐるみをくれた。


優しい空気に包まれ瞬間


嬉しくなったあたしは、旬君に最高の笑みを向け


「いや、ありがとうございます」


うわずった声をあげ、嬉しさを全面に表していた。


“貰っちゃった。嬉しいよ~嬉しいよ~!”心の声が漏れてしまいそうなくらい張り裂けそうな胸。


この胸の高鳴り。それはまさに


“あたしは彼が好きになりました”


とハッキリ告げていた。でも、恋に落ちてしまった相手は、彼女持ちだと知ってしまった現実。


天国と地獄を数分で味わった気分なのは言うまでもない…


「かわいくなくてごめんな」


「そんなの、嬉しくないよなぁ~しかも『友里』って、旬は本当になれなれしい」


旬君の声に覆い被さるように、隼人君はここぞとばかりに、痛い所を指摘してくる。


さっきからなんなの。この男は…


「呼び捨ていやだった?ごめんな」


「えっ?いや、ぜんぜん平気です、それでいいです!!」


申し訳なさげな旬君を見ているくせに、うまくフォローする言葉が見つからない。


あたしの働かない頭がこの時ばかりは、憎らしいよ…


呼び捨て出来る間柄


それは二人の距離がグッと近くなり、他人から知り合いになった証。


とても大事な出来事なのに、うまくフォローしてあげられない自分は、なんて子供なんだろう…


あたしが一人モヤモヤな気持ちと格闘してると、旬君はタバコを吹かし、なぜか笑っている。


ん?あれ?なんで笑ってんの?


笑われるような事した?
< 18 / 20 >

この作品をシェア

pagetop