snowscape~彼と彼女の事情~
*episode1
気がつけば、長袖の時期を迎えていて
感じる風も風景もなんとなく寂しく感じる
「う〜さみぃ〜っ!!!ありえねーよ」
家を出るまでに気付かなかった真っ白い世界を見た瞬間
口から落とされたため息に重なり白い息が視界に入る
そして俺は今日も、現場へと向かおうと車が止めている駐車場までの道を歩く。
積もっている雪
昔は喜んで走り回っていたのに今じゃ大嫌いだ
歩きにくいわ、何よりこんな日であろうと仕事には関係ない
ーーブルルルルーー
車に乗ってエンジンをかけようとすると、胸ポケに入っている携帯が小刻みに震えている。
この時間に俺の携帯を鳴らすのはアイツくらいだ
まるで、それは習慣のように。
【おはよう〜☆雪ちょー綺麗だね♪今日も一日お仕事頑張ってね(*^_^*)】
はいよ。心の中で呟く俺もきっと習慣づいているのだろう。
メールはどうも苦手で打とうとする気にならない
そんな俺に彼女である茉莉(まり)は初めは項垂れていたけれど、次第に諦めがついたのか何も言わなくなった。
それでもこうして毎日メールをしてくるのだから大したもんだろう。
茉莉とは俺がまだ、大学に通ってくる頃に知り合った同じ年の20歳になる女の子
「好きなんです!!付き合って下さい」
学校の門を出た瞬間、名前も知らない女の子が俺に頭を下げてきた時にはさすがにびっくりもしたが
「ああ、いいよ」なんて簡単にOKを出した俺に明らかに向こうの方がびっくりしたに違いない。
携帯を取り出した俺に“?”マークをチラつかせる目の前の女に
「赤外線」とだけ言うと「番号交換してくれるんですか?」と目を輝かせていった。
「付き合うんだろ?」と言うと、「はい」と顔を赤らめて携帯を近づける
“登録しますか?”という文字に“はい”のボタンを押すと「じゃ、連絡して」とだけ残しその場を後にした。