snowscape~彼と彼女の事情~
お袋が会ってた数々の男たち
その中にはもちろん、隼人の父親もいた
自分がなんか変な夢でも見ているのだろう
お袋がそんなことをする訳がない
俺の中では、自分の目で見た光景をただ否定するばかりだった。
『なぁ、お袋?毎晩どうして違う男と歩いてんだよ』
その日もいつもと変わらず、鏡の前で綺麗に化けていく姿を見ながらそう呟くと
『愛されるためよ』と今まで俺が見たこともない笑顔でそう笑った。
俺のその言葉にせめて否定して欲しかった
きちがいかと思った
頭がいかれちまってんじゃねぇ~かと思った。
『女なんてそんなものよ、旬も大人になれば分かるわ……』
『大人?』
『そうよ、愛されたいと女は願うのよ』
だったら大人なんかになりたくねぇと思った。
愛というものに縛られて変わって行ったお袋
愛というものに壊されてしまった隼人の家族
それでも隼人は笑っていた
いつもの隼人のまま、何も変わらなかった
そんなお袋が、部屋の中で泣きわめいていたあの日
『いやよ、どこにも行かないで!!あたし逃げるから!!』
ああ、この家から逃げるのか
俺と親父を捨てて……
そんな風に思いながらも次の日、学校から帰ってきた俺は見ちまったんだ
お袋は俺たちの住む家に
親父とお袋の寝室に男を連れ込んでいたことを
その日から、俺は変わった
愛というものは醜い
そして愛だの恋だの囁く女たちも醜い生き物だと思ったんだ
俺は一生、誰も愛することはないだろう
愛なんてものはこの世の中から消えてしまえばいい
そして、親父とお袋の間にも初めは愛というものがあって、俺が誕生してしまったかと思うと、全身に鳥肌がたつばかりだった。