可愛い幼なじみの求愛
「楓くん、あれは?」
私と楓くんは、無事、バスに乗ることが出来て、
水族館の中に居る。
玄関前で繋がれた私と楓くんの手は、ずっと繋ぎっぱなし。
「あれはね……」
楓くんは私の質問したことにすぐ、答えてくれる。
今さっきも、魚の名前を聞いたら、一瞬で答えてくれた。
しかも、解説付き。
今でも水族館が、好きなんだなと思う。
「ねぇ、風菜、あれ見て!!」
「え?どれ?」
『これだよ』と見やすい位置に楓くんが私の腕を引っ張って連れて行ってくれる。
昔もこうだった。
楓くんは、私を導いてくれた。
いつもは、公園のブランコで泣いていた楓くん。
この水族館でお母さんたちとはぐれて、二人で迷子になった時、泣きそうになり涙をこらえている私の手を握り、
『大丈夫』
そう言ってくれた。
その言葉が当時の私にとってどれだけ、力強かったことか。
楓くんと私は手を繋いで、一緒にお母さんたちを探した。
楓くんが腕を引っ張ってくれた。
頼もしかった。
「風菜?」
楓くんが私の顔を心配そうに覗き込んでくる。
きっと、私がぼっとしていたからだろう。
「そういえば、昔、この水族館で迷子になったよね」
楓くんも覚えてたらいいな、私は期待を胸に聞いてみる。
「そういえば、あったね。二人で水族館、あるき回ったやつ」
口に手を当てて楓くんが笑う。
私もそれにつられて笑う。
こういう時間が楽しい。
「楓くんと今みたいに手を繋いで、お母さんたち、探したよね。懐かしい」
「うん………」
楓くんと私の間に沈黙が流れる。
その沈黙は、全然、気まずいものではない。
同じ記憶、空間を共有している。
それがなんだか、嬉しい。
私は楓くんを見る。
目の前にある水槽をじっと見つめている。
きっと、昔のことを考えてくれているのだろう。
今、思えばあの時、あの瞬間。
楓くんと再会できたのは、本当に奇跡に近いものなのかもしれない。
一生懸命、探してくれた楓くん。
もし、探してくれていなかったらこの瞬間は訪れていない。
本当に感謝している。
私は楓くんと手を繋いでいる方の手に力を入れてぎゅっと握る。
それに気づいたのか、楓くんが握り返してくれる。
「風菜、行こっか」
少し顔を赤くして、歩きだす楓くん。
私もそれがうつったのか、顔が熱くなる。
そんな空間が、もどかしくて、恥ずかしくて。
でも、そんな空間も悪くないなと思った。