可愛い幼なじみの求愛
リビングにはお父さんが居た。
時刻は午後5時。
普段ならお父さんは会社から出たくらいの時間だ。
「二人とも座って」
私の目の前にはお母さん。
横には王子。
私達は向かい合うように椅子に座った。
「実は風菜に話したいことがあるの」
話を切り出したのはお母さんだ。
「何?」
私はその話というのを早く聞きたかった。
王子が居るのと関係している気がしたから。
普通に考えて、王子が私の家に遊びに来るなんてそんなことはありえない。
私と王子は全くと言っていいほど、接点がない。
クラスも違う。
話したこともない。
それに違いが多すぎる。
王子は学校の人気者。
それに対して私は、そこそこ友達がいるただの女子。
そんな私達に接点がないのはほぼ必然的と言える。
「あのね、
お母さんが話そうとする。
私はゴクリと喉を鳴らす。
「お父さんが転勤するの」
「そうなんだ……」
だから、お父さんの帰りが早かったんだ。
私は納得して軽くうなずく。
「それでお母さん、ついて行くの」
「私は転校するの?」
転校だけは絶対イヤ。
新しい友達も出来たのに……。
私の心は暗かった。
「風菜にはここに残ってもらおうと思ってるの」
お母さんは私の目を見てこう言った。
お母さんはお父さんについていくから私は必然的に一人になる。
兄弟いない一人っ子だから。
そしてお母さんは、王子の方を見ながら
「そこで、楓くんに風菜と住んでもらうことにしたの」
「……は?!お母さん、何言ってるの?」
なぜ、私がここに残る話から王子と同居の話になるの?!
王子と同居なんて絶対無理。
学校の女子達、主に王子ファンにバレれば確実に目の敵にされる。
私は見たことがある。
一時期、王子と付き合っているのではないか?と噂された同じ学年のいわゆる美少女が居た。
実際、その子と王子は付き合ってなかった。
だけど、すごい被害を受けていたと友達の咲から聞いたことがある。
「お母さん、私
『お母さん、私一人でも大丈夫だよ』と言おうとしたとき、
「あら、もうこんな時間!飛行機に遅れちゃう」
お母さんが急に立ち上がる。
そして、荷物を持つと
「風菜、楓くんと仲良くするのよ〜」
そう言って玄関を飛び出していった。
呆気に取られる私。
隣からは笑い声が聞こえてきた。
「風菜のお母さん、相変わらずだね」
口に手を当てて笑っている王子。
相変わらず……?
「お母さんとあったことがあるんですか?」
ずっと気になっていたことを聞くと王子は呆れた顔をした。
「覚えてないの?」
「覚えてないって?」
王子はため息をついた。
「……は覚え………にな」
「なんですか?」
私は王子が言ったことを聞き取れなかった。
けど、王子が凄く落胆しているのは分かった。
「風菜」
王子の私を呼ぶ声が間近で聞こえたと思うと、抱きしめられていた。
「王子……何を……?!」
私は王子の胸を力いっぱい押した。
王子の力は強くてびくともしなかった。
「また会えたね」
会えた……?
私は意味がわからなかった。
だって私と王子は接点がないはずだから。
なのに、この懐かしい感じは何なの?
心がポカポカと暖かくなるこの感じ。
「ずっとずっとずっと、会いたかった」
王子の抱きしめる力が強くなる。
私は抵抗するのをやめた。
王子の言葉は私に今までの感情をぶつけているようだった。
「風菜、ごめん」
私を抱きしめたことを謝る王子。
「だ、大丈夫です」
「ほんとに?」
王子が私の顔を覗く。
顔が、絶対真っ赤だ。
頬を触ると顔が熱くなっていた。
恥ずかしくて私は顔が見えないように下を向いた。
「それで、風菜が気になってることって風菜のお母さんと僕との関係だよね」
私はバッと顔を上げた。
顔の熱はなくなっているから大丈夫なはず。
「それで……どういう?」
「風菜は覚えてないかもしれないけど、僕と風菜
は幼なじみだ」
「へっ?」
口から素っ頓狂な声が出る。
「僕は風菜の幼なじみ」
王子と私は幼なじみ。
確かに幼なじみだったらお母さんと王子が知り合いなのも納得出来る。
けど……王子と会ったこと覚えてないんだよね。
私は記憶の糸を類い寄せる。
確か、王子の名前は………