意地っ張りな恋の話
「あ、絢くんこっち見」
言葉の続きを言う前に、
声がピタリと止まった。
頬に感じた温かい感覚、ちくりとした痛み。
何かされたらしい、ということを察した瞬間。
「っ、お前!!!!!!!!」
大きな声が廊下に響いた。
それが絢くんの声だと気づいたのはヨルくんがするりと逃げて行ってしまった後で。
ヨルくんに頬を齧られた。
犬が飼い主に甘噛みする、そんな感じで。
何をされたのか気づいた時にはヨルくんは消えていて、
すぐさまあたしの元へ走ってきた絢くんは、
あたしの手を取った。
勢いを緩めないまま廊下を突っ切る。
一体どこへ行くつもりなんだろう。
バン、と大きな音を立てて開いたドアの向こうに広がっていたのは真っ青な空。
どうやらここは屋上らしい。
学校の屋上って初めて来たかも。
そんなどうでもいい感想が頭に浮かんだ。