意地っ張りな恋の話
振り上げられたハサミを見て、思った。
こんなことになるなら、言っておけば良かった。
ただ、″絢くんのことが好き″、その言葉だけ。
そのたった一言、言えば良かった。
降りてくるハサミからせめて顔は守ろうと、腕で顔を隠してぎゅっと目を閉じた瞬間、
「ねえちゃん!!!!」
暗闇を引き裂くような悲痛な声。
恐る恐る目を開けると、ハサミを持って暴れる女の人と彼女を後ろから羽交い締めにするヨルくんの姿があった。
ねえちゃん?
ヨルくんが言ってたねえちゃんって、この人だったの?
「何やってんだよねえちゃん、いい加減にしろよ…!」
「うるさいうるさい!この役立たず、この女を絢から引き離せって言ったでしょう?!
何慣れ合ってんのよ!!」
金切り声で叫ぶ女の人の言葉を聞いて、思わず目を見開いた。
ヨルくんのあの怪しい感じ、このお姉さんのせいだったんだ。
″ 俺、ねえちゃんのためだったらなんだってできるし。″
たしかにあの時そう言っていた。
きっとその言葉に、嘘はなかったんだろう。