意地っ張りな恋の話


◎◎


わざわざ迎えにきてくれた澤くんにお礼を言って、ヨルくんと一緒に帰ってもらった。

一気に静まり返った更衣室で呆然と座っていると、いまさら手が震えてきた。


人に刃物を向けられたことなんてもちろん初めてで、殺意を向けられたことだって初めてだった。

震える手をぎゅっと握ったその時、裏口からガタンガタンと慌ただしい音がした。
まさか、あの人が戻ってきた?


青ざめながら更衣室のドアをただ見つめることしかできないあたしは、身体を動かすこともできず。

大きな音を立てて開いたドアにびくり、と肩を震わせた。



「……なに、その髪…」


ドアを開けたのはハァハァと肩で息をする絢くんだった。

こんな状況だというのに、久しぶりに顔が見れて嬉しいと思った。

それから、気が緩んだ。



ぼろぼろと落ちていく涙はあっという間に顔をぐちゃぐちゃにしていく。


「…っ、ゆり」


名前を呼ばれたかと思うと強く引っ張られた腕。

そのまま押しつぶすような勢いで抱きしめられる。
滲んだ視界には、絢くんの汗ばんだ首筋がいっぱいに広がった。





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