意地っ張りな恋の話
◎◎
やっと仕事が終わって会社を出ると、もう19時半を過ぎていた。
外はすっかり暗くなっていて、冷たい空気に思わず首に巻いたマフラーに顔を埋めた。
ポケットに突っ込んだ手の中でスマホが震える。
画面を見てみると、見慣れた″佐倉″の文字が表示されていた。
“先入って飲んでる”
短いメッセージにほっとした。
こんな寒い中外で待っていて欲しくなかったから。
やっと待ち合わせ場所の居酒屋に着いた。
週末の店内はサラリーマンたちで賑わっていて、今日が金曜だということを実感した。
「柚璃」
名前を呼ばれて顔を上げると、スーツ姿の佐倉がこちらに手を振っていた。
「ごめん、おそくなった」
「いいよ、俺もたまたま早く終わっただけだし」
生ビールを注文しながらコートを脱いだ。
ネクタイを外してワイシャツのボタンを外した姿の佐倉は、すっかり仕事終わりでリラックスモードらしい。
乾杯したあと、仕事がどうだとか同僚がどうだとか当たり障りない話をする。
こう言う話をするたびに、自分が大人になったんだなぁなんて実感してしまう。